フタの進化 コンビニコーヒーの「演出の戦い」

テレビは編集やテロップによって面白くなる、という話を聞いた事があると思います。YouTubeもそうですが、話の振りと落ちを一番美しいタイミングで合わせられるのですから、それは面白くなるはずです。料理もそうかもしれません。素材をどのように扱うか、という点では、映像も食事も変わらないのかもしれません。世の中には、こういう「演出」によって、素材の良さを強調させる仕事が様々あります。

 

今回は、そんな演出家の中でも、最近僕が面白いな、と感じた物について話します。それは、皆さんもきっと見た事があるはず。というか、お世話になった事があるはずです。

 

それは、コンビニコーヒーの蓋です。これにより、ローソンとファミマが絶賛、戦いを繰り広げています。この蓋を介してどんな戦いを繰り広げているかというと、「香りの演出」の戦いです。

 

そもそも、コーヒーはマグカップやショットで飲むものです。カップから立ち込める湯気の香りが、その部屋の落ち着いた雰囲気を演出するのに一役買ってくれる事を、僕らは知っています。ところが、コーヒーを、運転中に飲む、持って外を歩く、ようなシーンでは、こぼれないよう蓋をする必要があります。この蓋は、香りを閉じ込めてしまい、飲んでいる際に香りを楽しめなくしてしまいます。

 

それを解決しようと踏み切ったのが、ローソンとファミマです。それぞれを見てみましょう。

 

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ローソンの蓋には、仕掛けが隠れています。飲み口を開けて、溝に押し込むと、もう一つ穴が開くようになっています。

蓋に口をつけて飲もうとする際、この穴はちょうど飲む人の鼻のあたりにきます。ここから湯気を放出し、鼻に到達させ、蓋で塞がれたはずの香りを演出してもらおうという狙いがあります。そもそも、ローソンのキャラメルマキアートを飲んでいたとき、香りとこの蓋の仕組みを発見したことで、今回の記事につながっています。

 

次に、ファミマの蓋を見てみます。

ファミマの蓋

こちらは、飲み口が大きくなっています。缶コーヒー飲料の飲み口から着想を得たのでしょう。飲み口が大きく開いているので、そこから香りが鼻に到達します。飲み口が大きくなると、運転中のように位置を確認できないとき、こぼす危険性が大きくもなりますが、この蓋には下唇のガイドもありますので、運転中も問題なく飲めます(これは確認済み)。

 

 

唇を当てる部分に加工がされている



各店を比較すると・・

セブンイレブンの赤のガテマラ用の黒蓋。香りはほとんど外へ出てこない。

セブンイレブンの蓋はこんな感じなのですが、これと比較すると、確かにローソン、ファミマのコーヒーについては、飲む際に香りが強く感じられました。ローソンとファミマのコーヒーを比較した感じでは、香りの感じ方に違いを感じませんでした。香りの演出において、ローソンとファミマはセブンに対して一歩リードしているようです。蓋の色について言及すると、ローソンは黒い蓋なので女性でもリップの色移りを見られにくく、安心できます。ファミマは基本白蓋で、セブンは、ブレンドで白蓋です。

 

セブンイレブンでは、青のキリマンジャロ、赤のグァテマラ、など、豆と紙カップにこだわりを注いでいるようです。確かに、ブレンドと比べてまた違った味を楽しめます。以前は、味の違いも楽しめるセブンイレブンのコーヒーが個人的に一番好きだったのですが、ファミマがブレンドの「濃いめ」やカフェラテを改良してきたことで、自分の中ではコンビニカフェに優劣はなくなってしまっていました。そして今回の蓋による香りの演出です。ブレンドコーヒーを飲むなら、もうどこでもいい、と思うようになりました。

 

ところで、ローソンは蓋を改良しただけでなく、自分用の蓋「my-lid」を開発し(開発元サイト)、テスト販売しました。この蓋の形状は、明らかに香りも重視しています。ローソンは、プラスチックの蓋の消費量を削減する事を目標に、my-lidの開発に踏み切ったようですが、今後はこのような「my蓋」がコンビニ各店舗で売られるようになり、今現在のビニール袋のように、プラスチックの使い捨て蓋は有料となり、徐々になくなってゆくのかもしれません。

画像は、開発元から拝借しています。

 

 

演出の戦い

今回の蓋に関して思うところを挙げると、日常からコーヒーにこだわりはしない層に対して、豆や抽出方法ではもう戦えなくなっているという事です。もちろんコーヒーの味は重要です。粉を水で薄めたような味では、頑張っている他の店舗に負けてしまいます。しかし、それが解消されどこのコーヒーにも味わいを感じるようになったとします。すると、コーヒーに拘っており、コンビニのコーヒーを「蓋付きのインスタントコーヒー」と評価するような人でなければ、どの店のコーヒーでも良くなってくるのです。

 

よって、次の戦いを探さねばならず、そうやってたどり着いたのが「香りの演出」だと考えられます。こう思うと、演出の戦いというのは、演出をする素材(今回でいうコーヒー)の戦いが終わった後の戦いなのかもしれません。流行っていたタピオカも、すでにタピオカドリンク自体の戦いはとうに停戦し、別の戦いに移行しているでしょう。広告を見てもそうです。ブランドを浸透させたいから、イメージに合った映像を流し、顧客を自社の物に惹きつけさせます。

 

この演出の戦いは、至るところで生まれ続けると、僕は考えます。しばしば、日本の経済は成熟していると評されます。これは、素材はすでに完成しており、あとは演出の戦いだ、と言い換えられますが、僕はそうは思いません。人々の生活が変われば、モノの使われ方は変わり、時代に合った新たな形で、ものは作り変えられます。そして、その性能を、顧客の満足する水準に上げるために、企業は改良させます。コンビニコーヒーも、まさにその例だと言えます。今後、その素材のてっぺんが見えたとき、どんな演出で戦うことになるのか、世の中を観察してみようと思います。

 

また、今まで演出の手が加わっていなかった部分は、演出によって輝きを取り戻させる事ができると言う事です。こうしてみると、いろんなところに「演出」の戦いが生まれてきそうな予感です。

 

さて、今のところ、ローソンは他のコンビニ店舗と異なり、コーヒーを「カウンターで渡す演出」を行っていますが、今後、他の店舗でもこのような演出が加わるのか。コンビニは、朝にコーヒーを立ち飲みする、イタリアのバールのように変わってゆくのか。コンビニコーヒーの「演出の戦い」からは、今後も目が離せません。

 

制作:ゆるリサーチ

提供:あたまのなかのユニバース

 

 




やてん

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