セグメンテーションとポジショニングの違いについて考える。STPを本気で理解する。

最近Webマーケティングについて勉強している中で、マーケティングに関してゴチャゴチャになっていた部分について整理していました。
今回は、その整理をメモとして残しておこうと思います。
※この記事は、マーケティングとそのフレームワークであるSTPに関する知識を前提としています。もしご存じなければ、シャープペンシルのクルトガを題材にSTPを用いて分析している記事がありますので、こちらをご覧ください。
あらすじ
ポジショニングとセグメンテーションの違いとは?
初めに僕がハッキリさせようと思ったのは、「ポジショニングとセグメンテーションはどう違うのか?」です。
セグメンテーションは、日本語訳すれば、「市場の細分化」、ポジショニングとは、「消費者の頭の中での位置取り」です。
例えば、コーヒー市場において、市場を細分化すると・・
こんな感じになります。
そして、コーヒー市場において、「自宅外・かつ余暇」のセグメントにターゲットを絞り(ターゲティングし)、ポジショニングを行うと、こうなります。
ここでハッキリ理解していなかったのが、「細分化の目安は、どこまでなのか?」です。
ポジショニングは、セグメンテーションによって分けた市場の中から(基本的に)一つの市場セグメントを選んで、そのセグメントの中で自社の位置取りを行うことです。
位置取りには上のように軸を何本か使いますが、この軸も、セグメンテーションの基準にしてしまえるのではないか。セグメンテーションの時点で、ポジショニングで用いる軸でさらに市場を分割すれば、わざわざマーケティングを3段階に分ける必要ないのではないか、と僕は疑問に持ちながら、これまでさまざまな企業を分析していました。
僕のこの疑問が正しければ、マーケティングを、セグメンテーション→ターゲティング→ポジショニング(STP)の順に、形式的に行う必要はなくなります。
セグメンテーションの段階で、マーケティングの全てが終わることになります。
ポジショニングの軸を作るのは難しい
いろんな視点で考えていた中で気がついたのが、実務においてポジショニングの軸を作るのはそもそも難しいことです。
確かにスタバとドトールには、違いがあります。それも、自分含め消費者の頭の中での位置取りが違う程度にはあります。
この位置どりの違いは、スタバが創業に向けて、ドトールなどのようなフランチャイズのカフェチェーンに対して、自社の差別化を図ろうとするところから始まっています。
一方ドトールは、スタバが勢いづいて人気になっても、スタバと同じ位置付けにならないように努力しているはずです。
この両社の行動の結果、僕らは両社を、訪れるシチュエーションに関して、「別物」として扱っているはずです。
ポジショニングとは、このように消費者に「別物」と思わせることを目的としています。
そして、「別物」として扱ってもらうには、攻め方を独特にしなければなりません。
「別物」と思ってもらうために
両社のお金の使い方が全然違うことについて、競合分析してまとめた以前の記事にも書きました。
スタバのお金の使い方には、畏敬の念すら感じます。消費者に違いを認知してもらうためには、勇気ある決断が要るのだと感じました。
ポジショニングは、社内で使える予算や他の経営資源との相談をしつつ、他社と比較し、消費者にとっての自社の位置付けやイメージをどのように形成するのか、という複雑な思考です。
違いを感じてもらえるような軸を作るとなれば、消費者に対する深い理解が重要です。誰に何を提供すれば、その人は自社のサービスを使ってくれるのか。また、なぜ使ってくれるのか。
「ポジショニングをセグメンテーションの段階で行えるのでは?」という僕の誤解は、スタバとドトールのように、既にポジショニングの結果が出ているものを再度STPに当てはめて分析することが原因で生まれるようです。
本来ポジショニング(というより、STP)は、「新たな立ち位置を作り出す」視点で行われるはずのもので、分析に使うものではないのかもしれません。
つまり、「STP分析」というより、「STP戦略」と言った方が正確な表現かもしれません。
セグメンテーションは、市場や業界の内訳を「知る」行為であり、ポジショニングは、自社の立ち位置やイメージを「作る」行為なのでしょう。こういう違いがあったようです。
スタバとドトールを「競合」と呼んで良いのか?
これまでは、スタバとドトールはポジショニングによって「別物」になった、と述べてきました。
また、両社の違いを通して、セグメンテーションとポジショニングの違いについて、曖昧だった理解を少し深めることができました。
しかし、そうすると、新たな問いが生まれます。それは、「両社は競合と言えるのか?」です。
簡単に「市場」、「競合」と言ってしまうのですが、それぞれの定義は、意外と曖昧な理解だったな、と気が付きました。
市場とは、複数のプレーヤーがお互いに競争している場所です。
こう思うと、ポジショニングによって、違う立ち位置を確立した2社に対して、同一の市場で競争していると考えて良いのか?と疑問が出てきます。
スタバに行きたい人は、ドトールを探さないはずですし、それは逆も同じです。つまりこの両社は、互いに競争を回避しています。
この両社を、同じ「市場」で「競争」を行なっている、と判断しても良いのでしょうか。
ここで、セグメンテーションとポジショニングの違いに戻ってきます。
セグメンテーションによって市場を細分化する際、ポジショニングの軸までを想定するのはそもそも難しい、と先ほど結論づけました。
つまり、ドトールとスタバについては既に別物だと知ってしまっていますが、本来、セグメンテーションの段階でポジショニングで行うほどの深さにまで市場を分けることは難しいです。
僕は、スタバとドトールほどの違いになれば、これを別の市場と考えていいのでは、とも思います。この両社を比べるだけならば、消費者の目から観れば、ほぼ「無競争」だからです。
しかし、これはあくまで後付けで、結果論です。
スタバがカフェ市場に参入を検討する当初、セグメンテーションを行う際に、「くつろげる場を提供するのか、一時的に立ち寄る場を提供するのか」という踏み込んだ切り口でカフェ市場を分けていたとは思えません。
つまり、その時点では、スタバが参入を検討していた市場は、「カフェ市場」という一つの市場だったのです。
実務家の立場からポジショニングを考えれば、スタバとドトールは、やはり、同じ「市場」で「競争」しているのだと、改めて理解できました。
セグメンテーションとポジショニングは全然違った
現代の日本では、どの会社も、市場で自社のポジションをずらしながら戦っています。それをSTPで形式的に分析することに慣れてしまっていることが、STPをわかりにくくさせているのだと感じました。
既に消費者の間で位置付けが確立された事例をSTPに当てはめて調査をしているようでは、いくら勉強しようと実務に役立てることはできないな、と反省しました。
「セグメンテーションの段階でポジショニングの深さまで分けられる」という思考は、現状(結果論)から導き出される後付けの考え方です。
一方、実務でSTPに則る場合、ポジショニングは、消費者を観察し、洞察を得て、新規軸を発見し、その位置取りに経営資源を割く、という一連の創造的な行いです。
これをセグメンテーションの段階で行うのは、実務家の視点で考えれば、不可能だとわかりました。
ただ、セグメンテーションできる(つまり、市場が分けられる)と錯覚してしまう程にまでポジショニングが美しいと、それはマーケティングにおける成功なのだろう、と感じました。
結局のところ、僕は分析的にSTPをなんとなく使えるつもりでも、実務家としてSTPを理解できていない人間だった、ということがわかりました。
僕の悩みは、プロフェッショナルから見れば「見当違い」もいいところでしょうが、それでも悩んだ甲斐があったな、と思います。
フレームワークを「使う」って何なのか?
今回の自問自答を通してずっと感じていたのが、「フレームワークって、存在意義薄くないか?」ということです。
今回題材にしたSTPだけでなく、世の中には3C、4P、5フォース、バリューチェーン、SWOTなど、フレームワークと呼ばれるものがたくさんあります。
そして、これらを紹介する本も、たくさん出版されています。
ただ、今回取り上げたSTPにしても、マーケティングの成功に近づけるために重要なのは、消費者の消費の背景や不満を知ったり、それを通して他社と自社の位置付けを乖離させる軸を作り、それを目指して経営資源を配分する、など、フレームワーク外の営みが9割以上を占めると感じます。
こう思うと、フレームワークとは、社内での共通のプロセスやルーティン、共通言語としては役立っても、思考の役に立つものではなさそうに感じます。
そうなると、「使う」という考え方もいまいちピンときません。
フレームワークに沿って仕事を進めることはあっても、フレームワークで考えることはできないのではないか?というのが、今回新たに生まれた仮説です。
これについては、また考えがまとまったら記事にでもしようかと思います。
制作:ゆるリサーチ