セブンイレブンを競合と比較 セブンは何がすごいのか

セブンイレブン、ファミリーマート、ローソン・・
好みは人それぞれですが、「どのコンビニがすごいか?」と聞かれれば、だいたいの人は、「セブンイレブン」と答えるでしょう。
では、セブンイレブンは、どのようにすごいのか。なぜすごいのか。これについて、答えを持ち合わせているでしょうか。
今回は、なんとなく思われている、「セブンイレブンのすごさ」について、調査し、まとめました。
まずは、直近の業績を見てみましょう。
「セブンイレブンはすごい」は気のせいではない

セブンイレブンは、店舗数、売上高ともに業界1位です。しかも、1店舗あたりの売上高が競合2社に比べて高いため、生産性が高いコンビニであると言えます。
それでは、この内訳を・・と思いましたが、今回、これがなかなか捉えられませんでした。
はじめは、これまでやってきたように、財政状態の違いから差別化の源泉を見つけ出そうと考えていました。
しかし、設備投資額に特徴があるわけでもなく、以前分析したスタバやZARA(INDITEX社)のように、投資の選択・集中による差別化が、コンビニ業界では行われていないようでした。
それでは、どのように「セブンイレブンのすごさ」を捉えれば良いのでしょうか。
セブンイレブンのすごさ=・・・
今回、コンビニの大手3社を比べてみて感じたことは、「程度の差はあれ、どこも似たようなことをやっている」ことです。
業界で商売を行ってゆくための基礎・基本がどこでも行われており、日々、営業が行われているようです。
ですから、投資方針・運営方式の違い、ネットワークづくりなど、他の業界において個性が出やすい(とはいえ、勇気は必要ですが)リソース配分に、差別化の源泉が見られないことには悩まされました。
コンビニに限らず、小売業はそうなのかもしれません。商品を自社で秘密裏に研究開発するわけではなく、メーカー、商品の製造地、成分表示、すべてが競合に対して明るみに出てしまう小売業では、他の業界のような経営資源の配分によるポジショニングアプローチが難しいのかもしれません。
では、「セブンイレブンはすごい」と思う、この体感は、どこからくるのでしょう。これを僕は、今回、以下の因数分解で明らかにしようと試みました。
セブンイレブンのすごさ = 選好 × 認知 × 配荷
この因数分解、ご覧になったことがある方もみえるかもしれません。「確率思考の戦略論」の中で、森岡毅さんと今西聖貴さんが用いておられた「売上=プレファレンス(選好)×認知×配荷」から引用したものです。
「選好」とは好みのことです。
また、「配荷」とは、流通量のことです。換言すると、「あるものを欲しいとき、それを買いやすい度合い」でもあります。
「確率思考の戦略論」では、消費行動の確率分布から各社(・ブランド)の売上高が予測できること、あるいは、ある売上を達成するために必要な認知度と配荷の量を事前に予測し、それをマーケティングに活用できることが、例をもとに書かれていました。
その際の事例の商材はシャンプーでしたが、その確率分布の構造は、前提条件的にコンビニにも適用して差し支えないと考えられます。この方程式は、小売業の競争市場と相性が良いと感じます。
ゆえに、今回は、この考え方に基づいて、細かく要素を比較してゆきます。
認知は定数として扱う
先に、「認知」について考えておきます。
先述の式をもう一度見ましょう。
セブンイレブンのすごさ=選好×認知×配荷
この「認知」は、各コンビニに関して、認知度100%と考えて問題ないかと思われます。
ある地域に住んでいる人で、どこにどのコンビニがあるのかを把握していない人は、今のご時世、ほとんどおられないはずです。店舗の存在やブランドに関しては、認知100%でよさそうなことは、皆さんと合意が取れるかと考えます。
ちなみに、コンビニ各社が毎月・毎週開催するフェアやイベントに関しては、認知度100%とはいいづらいでしょう。これをどう解釈するのか、ですが・・
現状フェアやイベントは、だいたいの方が、コンビニに来店しなければ知り得ないはずです(ラジオCMをしっかり聞いていたり、各社のHPを見たり、通知がくるようにしているならば別ですが。)。
つまり、まずはコンビニに来店してもらわなければなりません。そして、来店の際のコンビニの選択に関しては、ある一回の来店ではなく、年間など長期的に見れば、「選好」、つまり、好みに依存すると考えられます。
よって今回、各商品やフェアに関しては、その単位では考えず、考えるとしても「フェアなど施策によって醸成されるブランドイメージ」として大枠でくくり、「選好」に含めることとします。そして「認知」に関しては、「店舗・ブランド認知度=100%」の定数として扱います。
それでは、残り二つの変数である、「選好」「配荷」について考えてゆきましょう。
高収益力の核心=選好について
消費者の選好(好み)は差別化において重要である。よって、それを好みに訴えるためのブランドイメージも重要である。
ブランドは、高収益力の核心である。
・・・この認識は、競争市場においては当たり前の原則です。
しかし、これが簡単ではないことも、僕らは知っています。
セブンイレブンの高収益は、店舗数だけでなく、店舗あたりの売上が大きいことも要因だ、と先述しました。
コンビニ各社の商品単価はそこまで大きく変わりませんから、一回の購買点数、あるいは客数が多い(または来店頻度が高い)と考えられます。つまりセブンイレブンは、他のコンビニよりも選ばれているのです。
では、どのようにセブンイレブンは選ばれているのでしょうか。さらに考えてゆきましょう。
弁当・惣菜人気が圧倒的である
少々古いですが、こちらのレポートを見ると、セブンイレブンが好きなユーザーにとって重要なのは、弁当やお惣菜が好まれている点です。これらは、コンビニの中でも部門別売上高において重要な位置を占める「加工食品」です。
これは個人的にも感じており、僕は弁当を買う場合、ほとんどセブンイレブンで買っています。味の好みについて研究しているであろう事はもちろん、こちらにあるように、消費者は同じ弁当を何度も買うことはないようですから、その好みを常に開拓することがコンビニ各社には求められます。
パン商品の開発にも通ずるものがあると感じますが、セブンイレブンでは、商品の入れ替わりが激しいように感じます。先程のレポートでも、セブンイレブンに好意を感じる顧客は、「欲しいと思ったものがいつもある」と感じていないようです。商品の入れ替わりが激しいことを物語っていると考えられます。
むしろ、一度は棚に並ばなくなったお気に入り商品がたまに復活を果たすことがあるのですが、そういう場合、即、購入を決断しますし、この瞬間の喜びは心に深く残ります。この戦術的な発注・陳列も、セブンイレブンの選好を引き上げている気がします。
一方、ファミマは「ファミマ・ザ・メロンパン」、「ファミマ・ザ・カレーパン」らを「ファミチキ」のような定番に作りあげることに集中しており、棚のラインナップが週次・月次で大きく変わっている印象はあまりありません(現在、伊藤忠の子会社になって月日が浅いので、今後変わる可能性はありますが)。これは、ローソンに関しても、同様です。
同じ商品を買い続けるような性向の消費者が少ない市場においては、セブンイレブンの商品開発スピードは、かなりのアドバンテージだと感じます。
企画力とアンテナの広さ・感度
セブンイレブンの商品の入れ替わりを支えているのが、期間限定で開催されるフェアです。今でいうと、中華フェアがそれに当たります。弁当が並ぶ棚の3割以上がごっそり入れ替わり、変化を感じます。少し前は、カレーフェアでしたかね。このようなフェアが毎月のようにあり、弁当好きの消費者を飽きさせない工夫をしているのです。
また、特にデザートなどに感じるのですが、コンビニスイーツには、流行が頻繁に取り入れられます。原宿に行かなくとも、コンビニのスイーツ売場を通れば、原宿で今流行っているものがなんとなくわかるくらいです。
そのような流行に限らず、世の中の端っこにあるケーキ屋などからも様々なスイーツを持ってきて新商品として開発・販売するスピード感は、やはり3社の中で一番です。アンテナが広く、かつ感度が高いと感じます。
コラボ商品の開発・ロングセラー化
世の中の端っこから新商品のアイデアを探してくるアンテナの広さ・感度もそうですが、カップ麺などの商品のコラボ力も、セブンイレブンの選好につながっていると考えられます。
蒙古タンメン中本、とみ田、すみれ、一風堂など、有名店とのコラボカップ麺は、もはやカップ麺と感じないようなクオリティです。各社、様々なコラボ商品を開発していますが、そのロングセラーぶりは、セブンイレブンの選好を支えていると感じます。
新商品開発への気合が凄まじく、この意志力によって、業界リーダーたるべくしてリーダーになっているように感じます。
クリエイティブディレクションの威力
これまでは、食品に目を向けてきましたが、ここで、非食品に目を向けてみましょう。ファミマ、ローソンの売り上げの部門比率を見ると、9割が食品、1割が非食品です。
一方セブンイレブンでは、食品7割、非食品が3割です。非食品も他と比べて人気が高いことがわかります。この理由は、シンプルで主張がなく、飽きにくいデザインが人気で、消費者が支持していると考えられます。実は僕もボックスティッシュは真っ黒のセブンイレブンのものを使っています。

僕以外にも、洗剤やシャンプーをセブンイレブンで買っている人は少なくないのではないでしょうか。セブンイレブンは、食品だけでなく、非食品でもデザインに一貫性を持たせることにより、消費者を虜にしていることが見受けられます。
セブンイレブンのデザイン製作は、内製ではなく、外部に協力を得ています。クリエイティブ・ディレクターの佐藤可士和さん(ユニクロ、ホンダのNボックス、キリンなどもご担当)が、デザインについては指揮を取られています。
「セブンプレミアム」「セブンプレミアムゴールド」の特別感、そして、その特別感を醸す、シンプルで、たまにゴールドを色に使ったデザインは、買う人に「贅沢感」を感じさせることに一役以上買っていると考えられます。
そのブランドイメージが、非食品カテゴリーの売上にも現れているのではないでしょうか。
ちなみに、最近ファミマのPB(プライベートブランド)が「ファミまる」に刷新され、そのパッケージをセブンプレミアムゴールドに似せている商品が見受けられましたが、個人的には歪に感じます。「ファミまる」が目指すイメージであろう「親しみやすさ」は、金色から感じ取られる「特別感」とは少々相性が悪いように思います。
このあたりのデザインの統一感も、セブンイレブンの好感度を支えているように感じます。
ちなみに、ローソンに関しては「自然派」なブランドイメージが感じられ、こちらも個人的に好きです。ただ、自然派をコンビニに求める層は、ジャンキーさを求める層よりも少数派であろうことは考えられますから、これが選好に現れるのは必然でしょう。
・・・・・・・・・・・・
以上が、「選好」に関しての内訳です。「核心」だけあって、文量が多くなってしまいました。「商品開発」「企画」「デザイン」・・・それら一つひとつの基礎が掛け合わされることで「選ばれるお店」になっていると考えられます。
まだ終わりません。もう一つの「配荷」について、考えてゆきます。
売場を観察してみたことはありますか?
実は、セブンイレブンの売り場には、ローソンやファミマと異なる点がいくつかあります。
そのうち、売上に大きく貢献しているであろう二つについて今回は書きます。
まず、単純な話、セブンイレブンは他のコンビニよりも棚数が多いです。概算ですが他の2社の1〜2割増しくらいあります。つまり、置ける商品の点数も多いです。
広い売り場は、在庫を多く置けることによって売り逃しを防ぎますし、ラインナップを多少充実させることもできます。ロングセラーなど人気商品・定番商品が多くなると、新商品を扱うスペースが狭くなりますが、それが比較的起こりにくいのがセブンイレブンです。
もう一つが、売場のレイアウトです。まずファミマは、カテゴリーごとで配置が決まっている店が多いです。例えば、アイスと冷凍食品が近くにあったり、パンは弁当と対面になっていたり。カップ麺はお菓子とつながっていたり。どちらかというと、配送や品出しのしやすさが基準になっているのかもしれません。
一方、セブンイレブンは違います。カテゴリーで売場づくりをするのではなく、(おそらくですが)消費シーンで売り場づくりをする傾向にあるようです。ですから、アイスはお菓子と対面だし、冷凍食品が、弁当・パンに隣接し、カップ麺もそれらに隣接していることが多いです。
あるものを買う人が、他にどのようなものを買いたいと感じるのか、その消費者の消費シーンを想像して、非計画購買点数を増やそうと考えているのではないでしょうか。
また、そのとき買わなくても、「今度は気になったこれを買おう」と記憶してもらいやすくもなります。これは来店頻度の向上に繋がり、選好の強化にも繋がります。
ローソンのレイアウトからは、店側の心理があまり読み取れませんでした。導線の長さを意識しているのか・・・売場からストーリーを見出せませんでした。
各社、膨大なPOSデータを活用して、バスケット分析(レシート単位で、何と何を買っているのかを分析)をするなどして、それを売場のレイアウト構成に生かしているはずですが、今の所、セブンイレブンがそれを制していると考えられます。
本来小売業の売り場レイアウトは、客導線が長くなるように設計します。消費者に長く歩いてもらい、様々な商品と出会ってもらい、いかに計画外の購買をしてもらうかを考えるのです。
しかし、それはコンビニに来る消費者にはあまり適しません。コンビニは中食産業です。歩きながら食材を手にして献立を考えるスーパーと異なり、なんとなく言語化されてはいなくとも、「消費イメージ」が消費者の中に事前にある場合が多いはずです。
何を買うのかは決まっていなくても、「弁当」「夕飯の足し」「甘いもの」など、方針は決まっているはずです。その方針毎に商品が集まったレイアウトになっているのが、セブンイレブンであり、今の所、それが有効に働いていると考えられます。
以上が、「配荷」です。セブンイレブンは、自社の強みとなっている商品開発や企画力の効果を、「配荷」によってさらに強化し、それによって「選好」を伸ばし、店舗あたりの売上、つまり生産性を向上させているのではないでしょうか。
「配荷」を支えるオペレーション
これまでは、
セブンイレブンのすごさ=選好×(認知=定数)×配荷
の式で見てきました。「セブンイレブンのすごさ」の核心は、確かに「選好」にあり、「配荷」がそれを支えているようなのですが、それだけではありません。
客数も点数も多いのであれば、店内作業も多いということです。セブンイレブンは、その点でも省力化の工夫をしていると感じます。
まず、レジについてです。コンビニのレジ作業は、総労働時間の3割に当たるとされているそうですが、それがセミセルフレジに変わることで、レジ時間の短縮に貢献します。
通常、ホットスナックの購入、弁当の温め、現金取引でもたつくなどで、スタッフと客のどちらかが手待ちになる時間が多くなると、レジ作業の負担は増加してゆきます。
これがセミセルフレジになることで、互いの手待ちが減り、手を動かせる時間が増えることでレジ時間の短縮が可能となり、発注、検品・品出しへ時間を回しやすくなります。
さらに、発注についてです。今では普通になっている「仮説検証型発注」、「発注支援システム」、それによる「単品管理」の先駆者はセブンイレブンです。この発注方式をいち早く取り入れ、それを運営の中核に据えてノウハウ化させたことによって、発注作業を上達させ、売り逃しや廃棄を減らし、「配荷」の効果をさらに上げ、「選好」にも貢献しているのだと感じます。
現場レベルでも、管理レベルでも、様々な工夫が日進月歩で行われ、それが総力となって「セブンイレブンはすごい」のブランドイメージにつながっているのだと感じさせられます。
終わりに:こういう戦い方もある
久しぶりにコンビニ各社を比較・分析してみました。
これまで記事としてあげていたものが、ユニークなリソース配分によるポジショニングアプローチの事例であり、鮮やかでインパクトのある題材だっただけあり、今回のようないくつもある因数一つ一つ洗い出して分析するのは個人的に難易度が高かったです。
それでも、こういうテーマはどこにでもあるはずです。上述のように、小売業・流通業においては、自分の手札の多くを相手に明かさなければなりません。ですから、セブンイレブンのように、総合格闘技的な戦い方をしなければならなくなるはずです。
小売でなく、資源の選択・集中による差別化型の企業も、どこかで総合格闘技的な戦いをしているでしょうし、基礎を実例を通して学びなおしたとも捉えられます。
個人的には、売り場のレイアウトがセブンと他とで異なっているところには興奮を覚えました。
前回コンビニを分析したときは、自分の興味が向く取引先構成やデザインにばかり目を向け、今に比べると視野が狭い分析をしていたと反省を感じるし、読んでくださった方にも申し訳なく感じています。
今回の分析も反省の対象になるほどに、小売業をより美しく分析でき、今よりも「セブンイレブンのすごさ」を考えられ、文章化できるようになることを夢見て、筆を置くこととします。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
P.S.
先述の通り、ファミマは伊藤忠の完全子会社になって、まだ日が浅いです。今は販売不振店舗の減損処理件数も多く、商品開発についても定番を再構築している段階ではありますが、それが食品が強みの伊藤忠商事のネットワークにつながることで、どのような変化になるのかは、まだ未知です。
また、「ファミマデジタルサイネージ」と呼ばれる大画面を使った店内での電子広告によって、店内のメディア化・販促強化を行ってゆくともしていますし、ファミマには、やはり可能性を感じます。
セブンイレブンでは「スマホレジ」の導入も今後あるようです。レジが来店前に行われるようになれば、スタッフの負担が軽減されるかもしれません。さらに各社、AIを用いた発注支援や無人レジを本格的に導入してゆく方針も明らかになっており、今後、人件費が削減されることで、運営コストの構造が変わってゆくことが予測されます。
またその予兆を感じた際には、この記事をブラッシュアップしに来ようと思います。
参考文献
セブンイレブン 有価証券報告書
(有価証券報告書および内部統制報告書[PDF:2.0MB])
伊藤忠(ファミマ) 有価証券報告書
(第98期 有価証券報告書 (2021年4月1日から2022年3月31日まで)(2.22MB))
ローソン 有価証券報告書
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