ロッテらしさ、明治らしさ。チョコレートを通してお菓子市場をマーケティング分析してみた。

あなたには、好きなお菓子はありますか?

 

僕らは皆、小さい頃からお菓子と生活を共にしています。目をつぶり、そのお菓子の名前を言われれば、瞼の裏に、そのお菓子の形や、パッケージが鮮明に思い出されるのではないでしょうか。CMソングも、キャッチーなものが多く、商品からその商品のCMソングを思い出せるものも多いはずです(「やめられない、とまらない・・」「それにつけても・・」)。

 

今回は、そんな皆大好きなお菓子の中から、チョコレート菓子に焦点を絞り、ロッテと明治の二社について、マーケティング分析しようと思います。この記事を読み終わる頃には、「ロッテらしさ」「明治らしさ」という世界観が、読まれた方の中にできあがっているかと思います。今回は、そんな世界観をみなさんと共有できれば、と思います。

 

まずは、お菓子の業界を数字で覗いてみましょう!

 

ロッテは意外とすごかった

これは、直近の一年での売上を、大手2社(ロッテ・明治)についてまとめたものです。売上は、全社の売上ではなく、菓子部門にのみ絞っています。

単位は億円です。グリコ、森永は、売上高が1,000億を満たず、また商品ラインが明治・ロッテ2社と異なるため、今回は比較対象から外します。

ロッテの商品の単価は、明治含め、他社に比べて特別高くはない(店に依るでしょうが、ファミリー向けでない小箱包装の商品で、だいたい平均単価150円くらい?)です。棚割を見ても、ロッテの商品に、棚の面積が他より多く割かれているわけでもなく、ゴールデンゾーン(消費者が立った状態で目に入りやすい棚の高さ)を他より占めているわけでもないので、単純に、ロッテのお菓子は、他に比べて人気であると考えられます。

 

具体的に言うと、クッキーの中にチョコレートが入っている、コアラのマーチ(ロッテ)、プッカ(明治)、パックンチョ(森永)が同じ価格で置いてあるとしたら、プッカやパックンチョが一つ棚からなくなるまでに、コアラのマーチは2つなくなっているという事です。専門的に言えば、商品の回転数が大きいということです。

 

とはいえ、明治にも、他に引けを取らない人気商品があります。たけのこの里と、きのこの山です。たとえプッカがコアラのマーチに比べて販売数で劣っていても、この2つの商品には、それを巻き返す勢いがあるはずです。

グリコは、ポッキーを筆頭に商品を製造・販売していますが、基本的に狭い商品数で展開していますので、今回は比較対象から省きます。

 

森永に関してはご存知、キャラメルやクッキーの各種シリーズが強いです。森永は、商品の幅の広げ方が、あまりにロッテ、明治とは性質が違うので、今回は比較対象から外します。これが、「森永らしさ」です。森永のお菓子は、素朴なのです。不思議と比べられないのです。というわけで、今回はロッテと明治のみに焦点を絞ることにしました。

 

では本題、なぜロッテと明治の菓子には、売上に倍ほどの差があるのでしょうか。それを次に見てゆきましょう。



 

ロッテのすごさ=商品開発思想×ブランド展開

ロッテのすごさは、これに尽きます。ロッテには、ある商品を別の形でプロデュースしたり、既存商品の組み合わせを新しい商品にしたりする事に長けています。そして、それらに「ガーナ」ブランドを冠させ、認知度を高めるのも上手いです。

 

例えば、アイスクリームの話になってしまいますが、ロッテには「CooLish(クーリッシュ)」というアイスがあります。これは、実は同じくロッテのアイスクリームの「爽」を、別のパッケージに入れ替えたものだと考えられます。「爽」は、氷が混じったアイスクリームで、手の体温でも、すぐに柔らかく崩れます。CooLishは、この溶けやすさを活用した商品だと考えられます。明治のスーパーカップでは、これと同じことはできません。凍ると固まって、なかなか溶けないから、飲むアイスにはできないのです。

 

また、ロッテにはガーナという定番の板チョコがありますが、そのガーナブランドを冠して、ロッテは様々な関連商品を生み出しています。ガーナブランドを商品間で水平展開することにより、認知度を高める事にも成功していると考えられます。ガーナブランドをパッケージに印刷することにより、「ガーナのチョコレート、こんな商品もあるんだ」と消費者に認知してもらいやすくしているものと考えられます。商品パッケージ自体が商品の(ブランドの)プロモーションの一つにもなっているのです。

 

アイスクリームにもガーナブランドは浸透している。

そして、この生チョコ入りはおそらく、これらの商品を顧客層を変えることを目的に開発した商品でしょう。

シャルロッテは少々高価なチョコレートで、大人向けでした。それをガーナブランドで新たに開発し、より広範囲の顧客層へアピールし、購買単価を高める狙いがあるものと思われます。

 

ちなみに、こういう「チョコレートの中に何か入っている系」商品の元祖は、これらです。中でもバッカスは、ロッテの創業近い50年前近くからあり続ける商品です。シャルロッテも、もともとはバッカスから着想を得たものなのでしょう。

 

これら「チョコレートの中に何か入っている系」はロッテが常に一歩先を行っており、この手の商品が出ると、「出た、ロッテのお家芸」、と思ってしまうのです。トッポも、考え方次第ではそうですよね。このように、今ある商品のアイデアを別の商品として転用するのが上手なのが、ロッテらしさです。

 

お菓子のような低価格、かつブランドの認知度が高い商品に関しては、消費者は購買行動において、「バラエティーシンキング型」と呼ばれる行動を取るとされています(「アサエル 購買行動」で検索してみてください)。要は「このブランド今度はこれ出したんだ、お試しで買ってみよう」で消費者が商品を買うということです。お菓子において、ブランドを水平展開させるのは、消費者の好奇心を刺激するのに十分有効であり、ロッテはこれをうまく活用しているのです。

 

ところで、明治とて、このロッテのやり方を真似してしまえば、様々な商品を生み出し、売上もロッテへ近づかせることができるのではないか・・そんな風に思いますよね。これまではロッテの商品開発がユニークであることを説明しました。そのユニークな開発思想から、ロッテは消費者に愛される商品を作れている、と。

 

確かに、ロッテだけがその戦略を取れば有効ですし、それが売上の差になるでしょう。しかし、明治もロッテと同じように、このような方法で商品を開発していれば、あるいは、今後すれば、人気を伸ばし、ロッテに追いつけるかもしれません。

 

・・ところが、明治にはそれができないのです。そして、それこそが、ロッテがチョコレート菓子の王者であり続ける要因になっていると、僕は考えています。

 

明治は、健康を至上の命題としている

近年、CI(コーポレート・アイデンティティ)と呼ばれる、企業の文化や独自性などの「アイデンティティ」が、企業のアピールポイントとして注目されています。明治は、そのCIとして、「人々の健康」への注力をアピールしており、実際に、菓子部門においても、「チョコレート効果」など、低GI(血糖値の上昇を抑えられる)チョコレートを開発、販売しています。

 

 

ところが、この健康志向は、お菓子とは相性がよくありません。健康になりたいなら、健康なお菓子を食べるよりも、精製炭水化物を避け、食物繊維、発酵食品、ミネラルを豊富に摂取する事、そして運動をする事が、圧倒的に重要だからです。もちろん、健康に対して一部の隙もなく、お菓子ですら健康に気をつけたい、という人はいるのでしょうが、その人数は、ロッテの商品がターゲットとする層の人数に比べ、少数派であることは明白です。

 

そして、経営資源(人材、お金、時間)を「健康」分野に投資すれば、それ以外への投資は疎かになります。明治は、自社のCIを、消費者の健康に結びつけて、商品開発思想にまで浸透させているがゆえに、自ら標的市場を狭くしている(もちろん承知の上だと考えられる)のです。

 

健康へ配慮するお菓子と聞かれてイメージするのは、明治の「チョコレート効果」であることは、ラジオで散々CMを聴いていたせいか、僕の中では浸透していますし、この商品を知らない人は、もはやいないでしょう。この分野においては、ロッテ含め、他社は明治には勝てないでしょう。明治も、「健康」なイメージで、差別化に成功しているのです。

 

ただし、一旦、「健康」というイメージで差別化のプロセスを作ってしまうと、「meijiブランド」を水平展開するような商品開発は、CIである健康志向を薄めてしまう危険があります。それは、明治にとって大きすぎる痛手です。よって、明治は、ロッテと同じような商品開発思想が持てず、広範な消費者層へ向けての商品開発を難しくしているのです。

 

こうして、両社が持つ商品開発思想の違いが、売上の差につながっていると考えられます。

 

まとめ

今回は、身近にあるお菓子を題材に、製品開発思想や、その背景にある会社の性格を顕にし、マーケティング分析をしてみました。それそれの会社に、その会社らしさがあり、それを商品から覗くことができる事、おわかりいただけたでしょうか。

 

本当は、各製造工場の役割分担や配送網など、お菓子の業界には、話したくなるような面白い特徴がたくさんあります。しかし、その話を足してしまうと、売上高ベースでしていた話がぶれてしまうので、今回は割愛致しました。興味があれば、その辺について、皆さん自身も探してみてください。

 

個人的には、これまでの分析と異なり、数字主導ではないのが少々不満です。ロッテは、韓国の「LOTTE Food」の一部であり、財務内容が切り分けられず、詳細の比較ができませんでした。ロッテに関して売上高しか数字が得られなかった事が、僕としては心残りです。

 

ただ、冒頭に述べたように、この記事では、「ロッテらしさ」「明治らしさ」の世界観を知ってもらうこと、そして、「その会社らしさ」が、その会社のマーケティング戦略など戦略を決定づけさせる事を、なんとなくわかってもらうことを目標に書きました。ですから、それを楽しんでもらえたら、そして、今回の記事をきっかけに、日常に潜む何気ない商品に、思いを馳せてもらえたら、幸いです。

 

それでは、また。

 

制作:ゆるリサーチ

提供:あたまのなかのユニバース

 

 




 

やてん

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