「数字に強い」とは、どういうことなのか。
「あの人は数字に強い」「ビジネスマンは数字に強くなるべき」
などなど、「数字に強くなったほうが良い」との話はビジネスマンの内で、共通認識です。
では、「数字に強い」とはどういうことか。
こう定義をつけてみようと思うと、適した表現が思い浮かばないことに気が付きます。
今回は、この「数字に強い」について、自分なりに定義づけてみます。
「数字は事実」は事実じゃない
まず、数字にまつわる、僕らの持っている最も大きなイメージからスタートしましょう。
「事実を語る」「数字は事実」「数字で語る」
数字に強くなるべきだと言われるのは、数字には「事実である」との認識が強いからだと感じます。
僕は、この論については半分賛成で、半分反対です。
確かに、何か目標を掲げ、それの達成度合いを測るには数字が事実確認として重要です。
しかし、数字も事実として扱うべきでない場合があります。
それは、平均値を算出している場合です。
例えば、売上高を、以下のように分解するとします。
売上高=客数✕客単価
この数式自体は正しいのですが、客単価については、事実ではありません。なぜなら、この客単価が例えば1,500円だとすると、お客さんの全員が1,500円分買ったわけではないからです。
これは、客単価をさらに分解した、下の式にも同様に言えることです。
客単価=一品単価✕買い上げ点数
この式自体も正しいですが、右辺の二項はどちらも平均値になり、これは事実ではありません。
例えば客単価1,500円の場合、一品単価が500円、買い上げ点数が3点だったとわかったとしても、お客さんの全員が500円のものを3点数買ってゆくわけではありません。
当たり前に感じるような点をなぜ強調するのかといえば、この認識の齟齬が、誤った解決の方向性、あるいは打ち手につながってゆくからです。
客単価を上げるには?
ここで、少し考えてみましょう。最寄りのスーパーでもドラッグストアでも、コンビニでも、どこでも良いです。
お店の売上を伸ばすとして、どんな施策が考えられるでしょうか。
きっとここで出てくる回答のほとんどは、
- 広告を打つ
- 値下げセールをする
- より多くの点数を買ってもらう
- より高いグレードの商品を買ってもらう
- 関連商品を並べて、ついで買いをよりしてもらう
- 試食など接客販売をする
・・・の、どれかか、それに近い内容になるでしょう。
ほとんどの人は、売上高を上の公式に当てはめて分解して、「客単価を上げるためには・・」「客数を増やすためには・・」など、解決策を挙げて、それを実行に移し、だいたいあまりうまくいかない結果に終わります。
この失敗(?)の大きな理由は、「なぜその施策をするのか」に対する根拠を持たないことです。
ちなみにこの場合、「客単価が低いから、客単価を上げる」という単純な裏返しでは理由にはなりません。もし仮にこれを言うのだとしても、「なぜ客単価が低いからといって、客単価を上げるべきなのか」に答えなければなりません。
また、何と比べて、なぜ客単価が低いと言えるのかについても、根拠が必要です。
根拠を持たないがゆえに、再現性も低く、長続きしないでしょう。数字を見て解決策を導いてるように見えて、数字に踊らされているようなものです。
これが「平均値の罠(勝手に命名)」です。数字を事実だと勘違いして、指標を見て、「低下しているところを増加させれば」などと安易な解決策に手を伸ばしてしまうのです。平均値は、事実ではありません。
売上高=客数✕客単価のように、掛け算で分解を行う場合、必ず平均値が出現しますが、平均値で物事を捉えているうちは、「数字に強い」ではなく、「数字に弱い」と言えそうです。
なぜ平均値を見て考えると、このような表面的で安直で長続きしない施策ばかりが生まれるのか。それは先述したように、平均値が実体ではないからです。先程の例で言うと、顧客の中には、500円を3つ買うような人しかいないわけではなく、様々な人がいます。
朝に、お昼のお弁当とお茶の2点を買って客単価800円のお客さんと、夜に、酒とつまみ、お菓子を合計4点買って客単価2,200のお客さんを足して2で割ると、「客単価1500円で、一品単価500円、買い上げ点数3」の平均値が算出されます。この平均値を事実と捉えることができますか?
できないはずです。平均値を見ていると、どうしても、顧客を理解することができないのです。数字を見ている管理職よりも、レジ打ちのパートさんのほうがまともな解決策を考えつく可能性が高いです。
では、平均値を見ることが、あるいは売上=客数✕客単価の公式が無意味かというと、そうではありません。
この公式が世に残り続けていることにもちゃんと理由はあるし、無意味ではないとも言えます。問題は、向き合い方だと思うのです。その向き合い方こそ、数字に強いのか、弱いのかの分かれ道なのだと考えます。
数字「は」大事、ではなく、数字「も」大事
さっきの売上向上施策に戻ります。仮に、ここ数ヶ月単位で客数が落ちていないにも関わらず、客単価は下がっているとしましょう。季節間の売上の差もないとしましょう。この場合、確かに、客単価が下がっていることは問題といえそうですし、何らかの対策を講じるべきです。
ではそうだとして、どんな対策を講じるのか。なのですが、ここで対策から講じてはいけません。先述のとおり、何か対策を講じるとしても、「その他の対策ではなく、その対策を起こすべき理由」を根拠に持って対策を講じるべきなのです。
ここでまず考えるべきは、「以前と比べて、何が売れなくなっているのか?」「以前と比べて、訪れる人が変わったのか?」など、客単価の低下をさらに究明してゆくことです。
数字を、より温度のある、そして意志のあるものとして、見てゆくのです。
もしかしたら、ある特定の層の顧客が離れてしまっているかもしれない。
その層の顧客は、ある商品と、もうひとつの商品を買ってくれていたのかもしれない。
しかしその層の顧客が他の店で新たなお気に入りを見つけてしまい、買ってくれる品数が減った。あるいは、購入頻度が落ちた。
よって、客単価が落ちた。
などです。
今の時代、会員データなどの顧客データやPOSのデータがあるなら、この想像が正しいかどうかは検証できるはずです。仮になかったとしても、発注頻度の推移を見れば、売れ筋、死に筋の変化はわかります。さらにそこから、死に筋になった商品を買っていた人はどんな人だったのか、などと顧客像を作り出してゆき、その人達がなぜ買ってくれなくなったのか、など、数字から実体を作り上げてゆき、行動にまで起こしてゆくのです。
ここまできてようやく、何をすべきなのかを考えられます。ここで考えるべきは、この離れていった人たちをもう一度魅了するのか、あるいは、相変わらず残ってくれている人に、より適合してゆくか、です。もちろん、両者が相反しないのであれば、両取りを狙いに行くのが一番良いでしょう。
さらにいうと、絶対に客単価を伸ばすべきなのでしょうか。特定の層の特定の購買が落ちたことが客単価が低下した要因だと理解できたなら、それは競合との競争に負けているということです。そこで、ストアコンセプトにまで切り込んで、既存のお得意さんのニーズを外さない程度に仕入れや陳列の方向性を変えてしまい、競争を回避しつつ、新たな層を獲得する。つまり、客単価の向上ではなく、客数増加が、売上向上において目指すべき方向かもしれないのです。
・・・と、ここまで考えて(というか妄想して?)店内を観察していると、顧客を見る際の目が変わるはずです。そして、重要なことに気がつくはずです。
それは、「客単価を向上させる」は販売者側の視点であって、顧客視点ではないこと。一方、顧客像を数字から立ち上げて施策を考えることは、顧客視点であるということ。つまり、視点が変わるのです。
数字は確かに大事です。しかし、数字を増減だけで捉えているうちは、数字に弱いままです。数字から生命を、その生態をありありと表現できること。それが、「数字に強い」ということなのではないでしょうか。
数字は大事だけど、数字だけではダメなのです。
「数字に強い」の本質とは
この記事では、数字を表面的に捉えて「数字が読めている」と思っていることを「数字に弱い」と考え、それと対照的な「数字に強い」とはどんなものなのかを考えてきました。
表面的に数字を捉えることの一例として「平均値の罠」をご紹介し、それを例に、数字が読めても数字に強くなれない、数字を活かせない原因を考えました。
そこから見えてきた「数字に強い」とは、数字から実体を想像し、立ち上げ、その生命とも呼べる実体を通して数字を見ること、のようです。
「数字に強い」とは、本質的には、「人間観察が上手い」、ということなのかもしれません。