今や定番のシャープペン 三菱鉛筆の「クルトガ」をマーケティング分析。

皆さんも学生時代、シャープペンシルの書きやすさで友達と議論したことがあるのではないでしょうか。僕は中学生の頃、「消しやすい消しゴム調査」という自由研究を行なったくらいの文房具好きで、今でも文具売り場や、本屋の文具・筆記用具コーナーが大好きです。

 

今回は、そんな学生時代の思い出せる、懐かしい商品にズームをし、いろいろ考えてゆきます。

 

もはや知らない人はいないシャープペンシル「クルトガ」

今回、僕が紹介したいのは、シャープペンシルの「クルトガ」です。今や、発売当初と同じモデルをお持ちの方は少ないかと思います。

製品ページ:https://www.mpuni.co.jp/products/mechanical_pencils/sharp_pen/kurutoga/standard.html

発売当初から注目されていたこの「クルトガ」を、今回はマーケティングの観点からご説明します。

高校生の頃に出会った「クルトガ」は僕に感動をくれました。そのことを大学生の時に通っていたマーケティングの勉強会で、発表するほどです。その発表では、マーケティングのフレームワーク(STP、4Pなど)を用いた体系的な発表をしていなかったということで、意図とずれてしまい不甲斐ない結果に終わりました。

 

最近、中小企業診断士の勉強をし、「企業経営理論」にて再度マーケティングを学び直していて、久しぶりにもう一回やってみようと思い立ち、今回、クルトガに関してもう一回語りたいと思いました。

 

マーケティングのフレームワークとは

  • STP

S:セグメンテーション(市場細分化)

特定の基準(年齢、性別など)で市場(顧客のニーズ)を分けること。最近は、これを形式的に行うことが問題視されている。

T:ターゲティング(標的市場の設定)

セグメンテーションによって分けた市場から標的市場(自社の商品、サービスを提供する市場)を選ぶこと。

P:ポジショニング

標的市場の顧客の頭の中での「自社の位置付け」を考えること。同じセグメントの中でも、顧客は物を区別していることが多い。その区別において、自分たちがどこを攻めるかを決めることを言う。

 

  • 4P

企業が標的市場において目的を達成するために統制可能なマーケティング要素(下の4つ)の組み合わせを最適化する(要は、限られたコストの中で、4Pの各自にどんな強弱をつけるかを決める)こと

Product(製品)

Price(値段)

Place(流通)

Promotion(販売促進)

 

※だからといって、STP、4Pを使って新製品を考えるわけではないはずなので、そこはご注意ください。あくまで、STP、4Pでストーリーを話せるものは、結果的に良いものだ、という話です。

 



 

「疲れにくさ」の追求から脱却した異端児

「クルトガ」登場までに売り場で見られたシャープペンシルは、「疲れにくさ」を重視した「Dr. Grip」などが主流でした。

 

よって、重心の位置、グリップの素材によって分類される製品が主で、他はといえばクリップが回る、正しい持ち方に沿った立体的なデザインなどのデザイン面で、シャープペンシルの差別化が行われていました。

 

そんな中、三菱鉛筆は見つけ出しました。シャープペンシルを持ち替えずに書くと、芯が偏って減り尖ってしまうことを。そして、持ち替えた際に、尖った芯が折れてしまったり、字の太さが極端に変わってしまう、消費者のモヤモヤ感を。

 

そこで、三菱鉛筆は「自分の筆跡の太さが変わらない」というコンセプトを打ち立て、製品として「クルトガ」を開発・販売しました。消費者がなんとなく抱えていた「口には出さないけど、モヤっとした使用感」の問題を解消したクルトガは、シャープペン界隈にとって、異端児のような商品でした。

 

クルトガは全く新しい切り口で考えられた商品

クルトガは、市場自体に大きなインパクトを与えました。シャープペンシル市場全体に「ノートを綺麗にとりたい」という新たなセグメントを作り出したのです。この解決策が史上初で顧客にも伝わったからこそ、インパクトも大きい。

クルトガ参入前の機能性シャープペンシル市場
クルトガ参入後の機能性シャープペンシル市場

クルトガは、筆記具界全体の考え方に影響を与えたとも言えるわけです。この際、半端な機能しか備えていなかったほとんどのシャープペンシルはこの世を去りました。そのようなニーズに応える商品は、ごく一部しか残らず、売り場の面はほとんどがクルトガなどの新規の機能性シャープペンシルになってゆきました。

 

クルトガは、上で述べたマーケティングのフレームワーク4Pのうち、Product(製品)として非常に優れている製品だったと言えるでしょう。最近出たオレンズ、デルガードなど「書きやすさ」以外のコンセプトに基づいた商品が打ち出されるきっかけもクルトガではないかと僕は考えています。

 

クルトガがもたらした三菱鉛筆の実績

クルトガが販売開始になったのは2008年のこと。世間はリーマンショックで特に暗い時期です。下の表を見ると、この時期、筆記具界の大手PILOTは2年間で純利益を落としていることがわかります。一方、三菱鉛筆はどうかというと、ダメージはあれど、次の年度には持ち直しています。

2008年は、今回紹介している「クルトガ」が市場を驚かせる商品として活躍しており、それが消費者に認めてもらえたことが大きいとの旨が、有価証券報告書にも記載さてれいます。「クルトガ」が三菱鉛筆の安定性に寄与したのでしょう。

 

ターゲット=「ノートを取ることが多い学生」が明確。価格もお値打ち

ノートと向き合う時間が長い学生は、シャープペンの書きやすさに対して敏感です。当時、色々試し買いをして、一人で複数種類のシャープペンを持っている人も多かった印象です。10年ほど前、自分が高校1年生の頃までは、ドクターグリップ(PILOT)が教室でも多勢を占めていましたが、クルトガが急に参入してきて、高校内に一気に広まった感覚がありました。

 

クルトガは、学生が気にする、「ずっと同じ位置で握ると芯が偏る」「持ち替えると細い芯がノートと当たって折れる」「太さが変わる」という潜在的な不満を刺激したのです。

 

さらに、値段が400円代で、試し買いやすかったということも大きいかと思います。ドクターグリップは600円後半。Priceも完璧!ドクターグリップに比べて、手を出しやすい価格帯です。いかに、ターゲットである学生のことを考えていたかが伺えます。

 

また、専用什器で展開し、目を惹きやすくしています。非常に良いPromotionです。(発売当初のものは画像ありません。)

また、これは勝手な解釈ですが、2008年といえば、AppleのiPod nanoの第4世代の販売開始と同じ時期なのですが、クルトガのカラーはiPod nanoのカラーそっくりなのです。ターゲットの学生は当時、携帯音楽プレイヤー世代でもあり、頻繁にiPhoneのカラーリングを目にしていました。このカラーシングも、学生の目に留まりやすくする工夫だとするならば、とんでもないセンスだと感じます。

そっくりではないでしょうか?

バックエンドの製品も素晴らしい

バックエンドとは、商品を買って終わりではなく、その次に、「あ、また出てる。欲しいな」「関連商品、あれも買おう」ということができるような商品です。クルトガに関して例を挙げると、主にラバーグリップモデル、メタルモデルなどハイグレードのモデルや、「クルトガ用」替芯が挙げられます。

ラバーグリップ

メタルモデル

専用替芯

まとめ 

「クルトガ」は、マーケティングのSTP、4Pだけでなく、バックエンドをも満たすいい事例かと思います。

 

世の他の商品に関しても同じくらい考えられているのかはわかりませんが、マーケティング初心者にもわかりやすいくらい完璧に基礎を満たした商品だと感じます。
参照
クルトガ(三菱鉛筆)
Apple

 

制作:ゆるリサーチ

提供:あたまのなかのユニバース

 




やてん

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