強みと機会の00:00 G-SHOCKの新製品がもたらしたインパクトとは

新製品というと、どのような気持ちが湧くでしょうか。「その会社の今後を牽引してゆく救世主」なる期待しょうか。それとも、割と冷静に「少しは足しになるかな」という気持ちでしょうか。

 

僕は、消費者の頭の中にある製品マップを大きく変える事(例:クルトガ)がない限りは、製品開発に関して冷静な目で見ています。新製品を、あくまで飛び道具であると考えています。

 

ところが、その飛び道具も、使われ方やタイミングによっては競合を突き放したり、苦境で踏みとどまるための大きな武器になる場合もあるようです。今回は、適切なタイミングにおいて飛び道具を打つ事の重要性について考えてみました。

 

題材は、腕時計です。今回は、この腕時計市場に関して、マーケティング分析してゆこうと思います。


CASIOの踏ん張り、要因は?

タイトルで結論をすでに述べているのですが・・飛び道具をうまく使った今回の主人公は、CASIOです。

 

まずは直近の5年について、経常利益の推移を見てみましょう。

緊急事態宣言の中、百貨店などの販売チャネルが営業停止し、インバウンド客などの需要がまるごと失われたにも関わらず、CASIOは、同程度の規模のCITIZENに比べて利益の下げ幅が少ない事がわかります。SEIKOはもともと経常利益率が低い傾向にあるようですが、宣言による影響で、ほぼ赤字になりつつあります。

 

CASIOはこの時期、時計事業以外の事業では営業赤字を記録しています。また、上述の販売チャネルの縮小や、リモートワーク・外出自粛による時計への需要減退も想像に難くありません。

 

CASIOは三社のうち、時計事業の売上貢献度が最も高いこともあり、本来この時期、CASIOの利益はもっと下がっていてもおかしくなかったはずなのです。

 

逆風が強く吹いているにも関わらず、CASIOが踏みとどまれた事には、この時期に発売した新製品が関係しています。G-SHOCKのフルメタルモデルです。G-SHOCKについてはご存知だと思いますが、フルメタルモデルは、そのゴム素材が金属素材になったラインナップです。

製品ページ:https://gshock.casio.com/jp/products/full-metal/gmw-b5000/

 

特に中国で人気を博したようで、結果、CASIOは重要な場面での業績への影響を最小限にと留めたと言えます。

 

しかし、新製品はあくまで飛び道具です。新製品をこの時期にリリースしているのは三社とも変わりません。CITIZENなら、ATESSA(アテッサ)など、SEIKOならASTRON(アストロン)やPROSPEC(プロスペック)などの新モデルです。

 

ここに、今回のメインテーマがあります。つまり、二社に対して、CASIOのフルメタルモデル発売は何が効果的だったのか?です。ひとまず、全体像を整理しましょう。

 

CASIOの勝ち筋

今回、業績を落としてはいるものの、競争においてはCASIOがひとり勝ちしたとも言えます。そこで、今回の結果に至る筋道を「CASIOの勝ち筋」とします。そしてその要因を分解してみると、次のように分解できそうです。

 

CASIOの勝ち筋=新製品 × 販路の広さ × 流行

 

「新製品」については、先程挙げたメタルGを指します。その後ろの二項「販路の広さ」と「流行」こそ、冒頭で述べた、飛び道具を使う「適切なタイミング」を指しています。

 

一つずつ見てゆきましょう。

 

G-SHOCKの受け皿は一気に広がった

「G-SHOCK」の文字を見たとき、僕らの頭の中に浮かぶ時計のイメージは、ゴム素材の時計であることが多いはずです。このG-SHOCKを使うには、パーカーやスウェット、スポーツウェアなど、カジュアルさ・ラフさ・スポーツライクが強めな格好をすることが定番でした。

 

ところが、メタルモデルへのラインナップを拡大させたことにより、ニットや、素材によってはシャツやジャケットに合わせても違和感がなくなりました。時計は服装に従って合う合わないが決まる要素ですが、今回のメタルモデルは、G-SHOCKを使う人のターゲットを一気に広げた製品であるといえます。

 

さらにいうと、メカニカルさがゴム素材の定番よりも増したメタルGは、G-SHOCK好きにとってもたまらない製品だったはずです。時計好きのコレクター心をくすぐる、効果的な製品展開だったのです。

 

ECへの着手の早さが明暗を分けた

次に、ECへの着手の早さです。時計の販売は、百貨店や、ビッグカメラなどの家電量販店、それ以外では、アマゾンなど通信販売サービスが主な販売チャネルであり、各社、最近までは直販のECサイトを作ってきていませんでした。

 

この直販ECサイトを最も早くに導入していたのが、CASIOです。いつから開設していたのかについては確認できませんでしたが、少なくとも、ピーターラビットの映画上映とのコラボをしていた2018年5月より以前には開設していた模様です。

 

一方、SEIKOやCITIZENは、コロナウイルスの感染拡大を受けて、その対策として、2020年以降に開設しています。

ECサイトというのは、検索エンジンを通して訪問される性質のため、存在を知られている人にしか目に入りにくいものです。

 

ゆえに、「いつ始めたのか」は、その認知において重要な要因であり、CASIOは二社に対して先行していたと言えます。

 

ECへの着手の早さには、三社の歴史が関係するように感じています。CASIOは、SEIKO、CITIZENに比べると新参者です。

 

話が逸れるので多くは書きませんが、SEIKOについて言うと、自社が積み上げてきた技術やブランドイメージに大きな自負を持っている事が決算書類の端々から感じられます。一方、デジタル領域においては、その領域の企業を買収するような経営をしています。要するに、職人気質が強く、デジタルに疎いと考えられます。程度の差こそあれ、CITIZENにも同様な事がいえます。

 

一方、CASIOにはSEIKOやCITIZENほどの歴史がありませんし、もともとが電子製品出身である事や、時計のターゲットが他社があまり手を伸ばさない若年層である事もあり、EC導入で先行できたのではないかと考えられます。

 

アンゾフのいう、「戦略は組織(風土)に従う」ですね。組織風土によって、その会社が採る戦略が変わる事を意味していますが、まさに、CASIOと他二社の間にはその力学が働いたと考えられます。

 

 

ラグジュアリーでさえスポーツを纏う時代

Gメタルが広いターゲットに刺さる良質な新製品だったこと、それを提供する手段(直販ECサイト)に関して先行していた事については述べましたが、そもそもGメタルが売れる事は、ここ最近の流行の影響も大きいように感じられます。

 

近年、アウトドア、オーバーサイズシルエット、スポーティなど、服装のカジュアル化が進んでいます。ラグジュアリーな層にも、ジム通いなど運動習慣が根付いてきている背景から、それに合わせたコーディネート「ラグスポ」が提案されていたりもします。

 

先述の通り、時計は服装に従います。普段の服装によって、時計の似合う似合わないもわかれます。その意味で言うと、Gメタルのヒットの要因には、ファッションの流行にうまく乗った事も挙げられそうなのです。

 

「ファッションのカジュアル化」は、Gメタルのヒットの追い風になり、この外部環境の要因も、CASIOの業績に関係していると考えられます。


SWOT分析の好例

今回の例は、戦略策定における「SWOT分析」の、これ以上ない好例であると感じます。SWOT分析とは、企業内部の要素である強み(Strengths)、弱み(Weaknesses)と、外部環境の要素である機会(Opportunities)、脅威(Threats)をそれぞれ整理する事で、経営資源(人・モノ・金)の最適配分の決定を助ける戦略策定手法です。

 

今回のCASIOのストーリーで説明するなら、「ファッションのカジュアル化を機会(O)として捉え、G-SHOCKブランドの知名度という強み(S)を活かして、Gメタルを販売し、市場から高評価を受け、その業績によってコロナ禍という脅威(T)を避けた」となるでしょうか。

 

SWOT分析は、持続的な競争優位に結びつく骨太な戦略の策定に活用するには役不足な分析手法だと個人的に感じており、あまり好まない分析手法です。戦略において重要なのは、以前の記事で取り上げたZARAスタバにあるような、常識破りで独特な「やり方」を作り上げることです。その「常識破り」の「やり方」では、あえて相対的な弱みをつくり、それを基軸に戦略を練ることもあります。孫氏が言うところの、正法と奇法の組み合わせです。

 

SWOT分析は、あくまで要素の列挙ですし、「機会を捉えて」、「強みを活かして」、「弱みを克服して」、「脅威を退け」・・などは動詞として意味合いが大きすぎるため、このSWOTの言葉を使っていては、実際に利益を生む戦略には策定しえないと考えられます。

 

ただ、このSWOTの要素でストーリーを説明できる場合、結果的にはそれはカチッとハマった戦略になっていたといえるのかもしれない、と今回のCASIOの例を見て感じました。過去の分析をする際に、このSWOTの言語で要約できる会社は強かった、と言えるのかもしれません。

 

本当の勝負はこれから

今回は、CASIOがECにおいて先行し、また意図的かどうかはさておきファッションの流行を捉えた事で、コロナ禍の影響を最小限に抑えることに成功した、と結論づけました。しかし、これはあくまで短期的な分析です。

 

「飛び道具も使いようである」事のいい例にはなったとは感じますが、CASIOには、Gメタルの成功にあぐらをかいていられるほど、余裕もありません。

 

CITIZENの有価証券報告書において、時計事業で今後伸ばしてゆきたい領域は、スポーティなデザインのラインナップ拡充とデジタルマーケティングだと記載されています。CITIZENは自社の課題について理解しており、今後、CITIZENがCASIOに戦いを挑んでゆく事になり、競争が激化するシナリオが予想できます。

 

SEIKOはSEIKOで、独特なECサイトを立ち上げており、そのサイトで与える消費者体験が、購入においてアドバンテージになる可能性もあります。この独特さが、今後の腕時計市場において競争優位の源泉になる可能性もあります。

 

腕時計市場の競争は、今、通販・オムニチャネル化という第二幕が始まったばかりなのかもしれません。

 

装飾品という意味でご近所である、ファッション業界のEC・オムニチャネル化が、腕時計市場における成否について考える材料になるような気がしますので、それについて今後は調査し、腕時計のECについても、もっと深く鋭く分析できるようになろうと思います。

 

制作:ゆるリサーチ

提供:あたまのなかのユニバース

 

 




やてん

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