大好きな本なのに、「イシューからはじめよ」を勧められない理由

「イシューからはじめよ」は、安宅和人さんが書かれた本です。初版は2010年なので、もはや10年前の本です。

 

僕がこれを買ったのは、研究室に入った2013年あたりかと思います。当時、社会人の方が開催していたプチMBA(論理や財務の勉強会)に参加していたとき、この本を紹介されて買ってみたのだったと記憶しています。

 

以後、ともに歩んできました。と言っても、読めるようになってきたのはここ数年くらいで、以前はわかった気になっていただけだったのだと思いますが。

 

それでも読み続けているのは、この本を折に触れて読み返すと、自分の変化に気がつけるからです。自分の思考プロセスが、以前と比べて、徐々に練り上げられていることに気がつけます。

 

そんな本だから、愛着はあるし、好きな本(ビジネス書)は?と聞かれれば、「イシューからはじめよ」だよ、と答えますが、これを人にオススメするかと言うと、最近はオススメできないと感じています。

 

今回は、この本をオススメできない3つの理由について書いてゆこうと思います。

 

理由①:対象読者は誰なのか?

この本の4ページの4行目に、以下のように書かれています。

ビジネスパーソンであれ科学者であれ「毎日の仕事や研究で発生する問題の本質がどうもつかめない」ともやもやしている人に何らかのヒントとなれば、そう願っている。

 

こう見ると、一見対象読者は広そうなのですが、実際に本の中で出てくる主な例示は、コンサルタント会社におけるリサーチ(調査・分析)と、それをもとにした提案のパッケージ作りです。

 

著者の安宅さんは、マッキンゼー・アンド・カンパニーというコンサルタント会社で、若手の研修を担当されていたこともある方です。その事実も加味すると、この本は、コンサルタント会社の若手が研修で習うことなのかもしれない、と考えられます。

 

具体的に言うと、リサーチャー(コンサルタント会社で一番職位が低い人。調査を主に担当する。)を1年ほど経験し、仕事がどんなものかも理解し、壁にぶち当たっている人々に向けて、「こういう考え方が重要です」と伝えるためのものかもしれません。

 

そう考えると、この本のコアターゲットは、マッキンゼーの1〜2年目のリサーチャーと設定できます。マッキンゼーというと、いまや東大・京大・早慶の人が新卒で狙う会社です。

 

つまり、入社から日が浅いためにイシューからはじめられてないにせよ、既に賢い人がコアターゲットなのです。

 

もちろん、学歴で読者を線引きするような意図は出版側にはないでしょう。ただし、しっかり理解するまでに、自分のような人間は想定されるコア読者よりは時間が必要だろうな、とも感じました。僕自身、ようやく最近わかりはじめた身です。これを新卒で理解してしまうなんて、幼い頃から積み上げてきた人たちには脱帽です。

 

そう思うと、「自分を劇的に変えてくれるだろう」と期待して、手ぶらで読んだ人には、「期待はずれな本」になると感じます。考え方のエッセンスを盗み、自分の日々にどう組み込んでゆくかを愚直に検討しなければ、この本を読んでも意味がありません。

 

例えば、この本を実践に移す場合、

 

「生産性の高い仕事をする」=「問題を見極める」✕「問題解決の質を向上させる」

 

と、2つの側面に分解できると考えられます。

 

そして、「問題を見極める」をさらに分解すると、

 

「問題を見極める」=「情報収集」✕「スタンスを取ってイシューを設定する」✕「イシューを細かく砕き、解決の段取りをつける」

 

に分けられると考えられます。

 

「イシューからはじめよ」という安宅さんのメッセージは、真ん中の「スタンスを取ってイシューを設定する」に関係していると思われますが、そのイシューについて、「要は本質ってことでしょ」と軽く考えてしまってはいけません。それは本書でも「なんちゃってイシュー」と名付けられ、紹介されています。

 

「本質的であること」は、「イシューであること」の重要な条件の一つですが、決してイコールではないのです。また、「本質が大事」なのではなく、「本質的な選択肢であること」が重要なのです。こうなると、もはや意図通りに伝わっていないのではないかとすら感じます。

 

序章の最後にも書かれていますが、「情報を噛み締め」られなければ、そもそも本の内容を著者の意図どおりに読むことすらできません。

 

自分の知っている範疇で本書の内容を理解しようとするのではなく、一つひとつの言葉をしっかり自分で定義づけ、筆者とそれをすり合わせながら読んでみなければ、この本を「良い本だ」とは思えないのでしょう。

 

そういう理由で、最近では軽い気持ちでこの本を勧めることができなくなってしまいました。

 

理由②:しっかり武器を揃えるには、結局5〜10年かかる

勧められない2つ目の理由は、書かれている内容が「大事だけど地道」だからです。

 

先述した、本書のメッセージをもう一度確認してみます。

 

「生産性の高い仕事をする」=「問題を見極める」✕「問題解決の質を向上させる」

 

そして、右辺のこの2つには優先順位があり、先に「問題を見極める」のが重要である。これを換言すると、本のタイトルである「イシューからはじめよ」になります。

 

この「問題の見極め」を、日々の仕事に取り入れると、どうなるでしょうか。

 

例えば営業を仕事にしている人について考えてみます。仮に僕が営業ならば、通期の数値目標の達成が常に頭を支配していると思われます。喫緊の問題は、今季の予算を達成するために、「誰から、いくら、成約をもらうのか」です。

 

しかし・・実は、問題の捉え方には、これ以外にも様々あります。たとえば、「競合ではなく、自分が選ばれるにはどうすれば良いか」。あるいは、「ある商品をどのように説明すれば、成約を増やせるのか」などなど、無限に出てきます。そしてこれらは、複合的に絡み合っています。

 

例えば、営業先の相手によって、商品のどのスペックを重視しているのかは異なりますし、それが異なるのであれば、商品のスペックのうち、何を訴求するのが効果的なのかも変わります。もちろん、それを検討する上で、顧客の情報を収集・整理しておくことも必要になります。

 

また、「自分が選ばれる理由」についても、そもそも扱う商材によって異なります。

 

契約期間が長い金融商品や保険、あるいは耐用年数が長い重機械などについては、そのもののスペックも重要ですが、それ以上に、それを売る人に対する、人間的、かつ実践的な面での信用が重要です。

 

つまり、一朝一夕では商品を売れないことになります。確かな商品知識を前提とした知性に加え、その人らしい人間的な魅力が他の要素に比べてさらに重要になります。

 

一方、ルート営業のような、受注をもらって都度納品をするようなスタイルの営業においては、顧客が「欲しい」と思ったときに、競合よりも先に自分を想起してもらう事が重要で、そのためには、定期的な訪問が鍵になったりもします。そのうえで、すぐに商品を用意し、それを求められる納期に間に合わせるフットワークが重要だったりもします。

 

というように、目標を達成する上で、実は日々検討すべきことはたくさんあります。これらのうち、営業数字を効果的に達成させる上で最も重要な論点(イシュー)は何でしょうか・・?

 

「要は本質が大事ってことでしょ」と早合点をして終わってしまう人は、この問いにすぐには答えられないはずです。

 

この問いに答えるには、頭の中に取引先や競合、そして、自分がどれくらい顧客から信用されているのか、好意的な関係を築けているのかなどの客観情報が入っており、それが整理されていることが必要だからです。

 

安宅さんも本の中で仰っていますが、このような「見立てる力」を育むには、数年かかるはずなのです。一方、「見立てる力」の重要性については書かれていますが、「どのように見立てる力を向上させるのか」については、そこまで詳しくは書かれていない。

 

また、もう一つの項である「問題解決の質を向上させる」(営業の例で言うならば、顧客のニーズ汲み取り、勧め方、訪問のリズムなど、具体的な戦術)についても同様に、「5〜10年かけて身につけてゆくもの」と書かれてはいるものの、その詳細については、「既存のやり方を広く学ぶ」「それらを組み合わせる」くらいにまとめられています。

 

安宅:「そこは、皆さんが日々学び、考えて積み重ねるものなのですよ」

 

明言されてはいませんが、概ね行間からはこう読み取れます。当たり前のことなのですがね。

 

こう言われてしまうと、「期待はずれ」と思う人がいてもおかしくはないですし、個人的にも、オススメした上でそのように誤解されたくはないです。

 

この本は、「日々の仕事に取り組むことをサボって、仕事の本質に楽にたどり着ける!」ライフハックではなく、「日々の仕事にしっかり取り組み、そのうえで、問題の見極めの練習し、より大きな成果に結びつけましょう」という、気付きの装置(スウィッチ)なのです。

 

ですから、これまた気軽にはオススメできないんですよね。自分の好きなものを「イマイチだった」と言われるのは、やっぱりちょっと残念ですし。

 

理由③:この本の継承者が現れてきている

最後に3つ目の理由です。

 

この「イシューからはじめよ」は、書かれてから10年以上が経っています。出版当初は、このような思考様式をすすめる本が稀だったようで、この本が光を放っていたものの、10年も経てば、似たような本も多く現れてきます。

 

その中で、この本に似た事を、それぞれの要素ごとに、より詳しく教えてくれる本が現れてきています。

 

これらの本を書いた人達は、おそらく「イシューからはじめよ」を読んで育った人々であり、その人たちが、日々の仕事の中でそれぞれに解釈し、さらにわかりやすく整理してくれた本が出版されてきています。

 

これらの本は、また随時ご紹介できれば、と思います。

 

「イシューからはじめよ」は、その本たちと比べると、より抽象的で、上位概念にあたり、それを真似て活用できる幅も広い本ですが、一方、とっつきにくさもあります。

 

そのとっつきにくさを解消しようと試みた本が、今やたくさんあるのですから、わざわざこの本をオススメする必要もないのかもな、などと思います。

 

そういうわけで、この本をオススメすることがなくなってきてしまいました。

 

オススメはできないけど・・やっぱり好きな本

久しぶりに読んでも、「あぁ・・ここに書いてあるわ・・」としみじみすることの多いこと。

 

でも、それに気がつけるようになったのも、それこそ社会人経験が4〜5年目にさしかかった頃なのだから、この本に書かれている通り、イシューを見極め、それを良い行動に反映させるまでには数年の努力が必要なのだと感じます。

 

そういう実感も相まって、やっぱりこの本は僕にとっては大切な本なんです。

 

最後に、個人的に最近のお気に入りの部分をいくつか抜粋して、展示させていただきます。この展示を見て「良いこと書かれているわ!」と思ったそこのあなたは、ぜひご自宅に一冊いかがでしょうか。

僕もそうだったが、最初は「質が低い」「必要なレベルに到達していない」と言われても、その意味が実感できないものだ。だが、絞り込んだイシューについて検討・分析を繰り返し行うことで、数十回に1度程度はよいものができる。よい仕事をし、周囲からよいフィードバックを得ることで、はじめて人は「解の質」を学ぶことができる。成功体験を重ね、だんだんとコツをつかむなかで、10回に1度、5回に1度と一定レベルを超えた〝使える〟解を生み出せる確率が上がっていく。

安宅和人. イシューからはじめよ 知的生産の「シンプルな本質」 (Japanese Edition) (Kindle の位置No.313-317). Kindle 版.

 

 

問題に立ち向かう際には、それぞれの情報について、複合的な意味合いを考え抜く必要がある。それらをしっかりつかむためには、他人からの話だけではなく、自ら現場に出向くなりして一次情報をつかむ必要がある。そして、さらに難しいのは、そうしてつかんだ情報を「自分なりに感じる」ことなのだが、この重要性について多くの本ではほとんど触れられていない。

安宅和人. イシューからはじめよ 知的生産の「シンプルな本質」 (Japanese Edition) (Kindle の位置No.387-390). Kindle 版.

 

 

 

人間は言葉にしない限り概念をまとめることができない。「絵」や「図」はイメージをつかむためには有用だが、概念をきっちりと定義するのは言葉にしかできない技だ。言葉(数式・化学式を含む)は、少なくとも数千年にわたって人間がつくりあげ磨き込んできた、現在のところもっともバグの少ない思考の表現ツールだ。言葉を使わずして人間が明晰な思考を行うことは難しいということを、今一度強調しておきたい。

安宅和人. イシューからはじめよ 知的生産の「シンプルな本質」 (Japanese Edition) (Kindle の位置No.496-500). Kindle 版.

 

 

最終的にストーリーラインと絵コンテに沿って並ぶサブイシューのなかには、必ず最終的な結論や話の骨格に大きな影響力をもつ部分がある。そこから手をつけ、粗くてもよいから、本当にそれが検証できるのかについての答えを出してしまうわけだ。重要な部分をはじめに検証しておかないと、描いていたストーリーが根底から崩れた場合に手がつけられなくなる。

安宅和人. イシューからはじめよ 知的生産の「シンプルな本質」 (Japanese Edition) (Kindle の位置No.1612-1615). Kindle 版.

 

 

 

ここが崩れたら話にならない、というような重要論点については、二重、三重の検証に向けたしかけを仕込んでおく。(中略)仕込みがほかよりも長い見込みの場合、できる限り早く手を打っておく。着手が早ければ想定より準備に時間がかかることも早期にわかり、これだけで大きく生産性が上がる。総じて、できる限り前倒しで問題について考えておくことだ。このように「できる限り先んじて考えること、知的生産における段取りを考えること」を英語で「Think ahead of the problem」と言うが、これは所定時間で結果を出すことを求められるプロフェッショナルとして重要な心構えだ。

安宅和人. イシューからはじめよ 知的生産の「シンプルな本質」 (Japanese Edition) (Kindle の位置No.1667-1674). Kindle 版

 

もしこの記事を読んで、それでも興味がある、という方には、ぜひ読んでみてもらいたい本です。冊子と音声のリンクを貼っておきます。音声については、下のリンクには2500円と表記されていますが、現在1500円/月で様々なものが聴き放題なので、普段の生活で移動時間などがある方には、音声読書がオススメです。

 

 

制作:メディアに学ぶ

提供:あたまのなかのユニバース

やてん

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