牛丼といえば・・・?牛丼界の王者に学ぶブランディング

牛丼といえば、どこのお店を思い浮かべますか?吉野家でしょうか、すき家でしょうか、それとも、松屋でしょうか。

 

僕の頭の中では吉野家が思い浮かびました。そして、どうやら多くの方の頭の中にも吉野家が思い浮かぶようです。「牛丼ランキング」「牛丼といえば」などと検索してみてください。世代間で調べたデータもありましたが、どの世代でも1位は吉野家でした(許可を取らなければならないので、ここでは結果のみを掲載し、下に参考サイトとしてURLを載せます。)。

 

吉野家は日本人の中で、牛丼としてのスタンダードの地位を築いているようです。そんな吉野家ですが、実は売上高で見ると首位ではありません。これはこれで不思議ですよね。以前書いたコンビニの競合分析や、カフェの競合分析においては、人々の認知とシェアには相関がありました。人々が、「ここがすごい」と思っているお店は、売上高や利益でも業界における首位に君臨していました。しかし今回は、そうではないパターンです。面白いですね。

 

なぜ、首位ではない吉野家が多くの人からスタンダードとして認められているのでしょうか。今回はその謎について考えた事を整理しつつ、学んだことを書き残しておこうと思います。

 

ちなみに、松屋は売上が3位であり、それには納得の方が多いと思われるので、今回の話からは除くことにします。



すき家の圧勝、なのだが・・?

直近の財務内容は以下の通りで、すき家が吉野家に対して圧倒的にリードしています。

難しいのは、これを直接牛丼の売上高に出来ないことです。すき家はメニューが豊富で、来店客のどれくらいが牛丼を食べているのかがわからないのです。僕が何度か昼時に訪れた感覚として、だいたい7〜8割の方が、牛丼を頼まれている感じです。残りの方が、カレーなどを頼まれていました。

 

子連れの家族となると、オーダーの割合が変わるかもしれません。そこで、休日の家族連れで牛丼の割合が減る事を考え、売上の6割が牛丼だとします。そうすると、すき家の牛丼のみの売上高は1,297億円になります。・・それでも、吉野家よりも売上高は高いです。そもそも、吉野家に関しても牛丼を食べない顧客について考えなければならないので、すき家の牛丼の方が食べられていると考えた方が自然でしょう。

 

牛丼はお店によって価格が大きく変わるわけではないので、売上高の大小が、おおよそ食べられた牛丼の杯数の多寡に変換されます。つまり、世の中の多くの人は、吉野家の牛丼よりも、すき家の牛丼を食べている事になります。冒頭に書いたように、不思議な現象です。日本には、「牛丼のスタンダードは吉野家」という認識がなんとなくあるのにも関わらず、なぜすき家の牛丼が吉野家の牛丼より多く食べられているのでしょうか。

 

と、考えていましたが、ふと自分が生きてきたこれまでの28年を顧みて、吉野家よりもすき家で牛丼食べた回数のほうが多いかも、と思い当たりました。そういえば、「牛丼ランキング」も「牛丼といえば」のアンケートも、「自分がよく食べる牛丼」を答えるものではないのです。そう思うと、吉野家に票を入れた人の中には、僕と同じ人間がいると考えられ、それを加味すれば、認知と売上にずれが生じてもおかしくないと考えられます。

 

 

それでも吉野家がスタンダードである理由とは?

そうであれば、「なぜ普段からすき家で牛丼を食べている人が吉野家をスタンダードだと認定してしまうのか?」という新たな疑問が浮かび上がります。

 

考えつく限りで、僕には5つ理由があると考えました。

 

  • 他社に比べて吉野家の歴史が古い
  • ラインナップを牛丼から拡大させ過ぎない
  • BSE事件の際の対応
  • 牛肉の厚み
  • ロゴタイプのどっしり感

 

1つ目の歴史は、他の理由に比べてイメージ形成に大きな影響を持っているかもしれません。吉野家の開業が1899年、すき家の開業が1982年です。100年弱の開きがあれば、世代を超えて親しまれるのもわかります。親御さんと行った思い出が心に残っており、自分が親になったときも「子供を連れていくなら吉野家」という人は少なからずいるはずです。こういった層を顧客にできるのは、創業から長い老舗ならではです。

 

2つ目、吉野家のメニューはすき家のメニューに比べ、ラインナップが絞られています。これによって、顧客はあまり牛丼から選択を広げません。よって、牛丼屋のイメージが崩れにくいと考えられます。逆の見方をするなら、すき家がメニューを手広く展開している事が、吉野家をより「牛丼に集中している」と見えるようにさせているとも言いかえられます。

 

3つ目、これは米国産牛がBSEに感染し、日本への輸入が禁止になった事件への対応に関するものです。詳細な売上高等についてはすでに入手不可能ですが、2004年のBSE発覚を境に、吉野家は米国産の牛肉が使えない事を受けて牛丼を取り扱うのを一旦取りやめ、豚丼を売るようになりました。一方、すき家は、豪州産の牛肉を輸入し、吉野家の減速を尻目に急速に店舗を拡大してゆきます。ここから数年で、店舗数も逆転し、今に至ります。BSEが、すき家圧勝の追い風になったようです。

 

こう見ると、BSEを境にすき家が牛丼の王者に君臨したと捉えられるかもしれませんが、裏を返せば、吉野家は「こだわりをみせる」事に成功しています。米国産牛と豪州産牛は餌が異なり、米国産の牛は牛丼向きなより脂肪がついた肉になります。この脂肪を吉野家は譲らなかったのです。この決断も、それ以後の売上の減少幅も、毎日が恐ろしかったはずです。それでも牛肉の素材にこだわったぶれないその判断から、「牛丼は吉野家」というイメージを抱かせたのかもしれません。

 

また、当時の店舗拡大の裏で、すき家ではワンオペなどの激務が明らかになり、イメージダウンさせています。急拡大し、一方収益性を上げられず、負債を重ね、安全性を欠いた経営をすることになり、すき家は内部から徐々に歯車が狂い始めていたようです。このマイナスイメージが、吉野家のイメージをかえって上げる形になったとも考えられます。

 

4つ目は、3つ目でも触れた、牛肉についてで、特に肉の厚さです。すき家の牛丼と吉野家の牛丼を食べ比べると、すき家の牛肉は薄くてタレがよく染み込んでおり、吉野家の牛肉は、すき家より薄味である一方、肉が厚く、肉の味や食感も感じられます。ここにこだわる人こそ、吉野家の愛好家の方でしょうし、ずっと食べてきた方は、なかなか他のお店には行かないのではないでしょうか。

 

5つ目、ですが、これは軽い冗談のつもりです。動きがある「すき家」のロゴタイプに比べると、「吉野家」はどっしりしていて、老舗感があるロゴタイプです。ゆえに、吉野家には牛丼界の重鎮というイメージがついているの・・かもしれません笑

 

吉野家に学ぶ、ブランディング

これまで、吉野家がそれでも牛丼界のスタンダードであり続けられる5つの理由を挙げました。これらを調べてきた中で、ブランディングとは、こういった一つ一つの経営判断と日々の行動の積み重ねなのだな、と感じました。

 

理由の5つ目で、ロゴタイプが与えるイメージを挙げましたが、吉野家の歴史を紐解くと、ロゴタイプでは全く説明が足りないと感じました。やはり大きいのは、3つ目までの理由だと考えます。つまり、吉野家の経営判断です。当時、売上高が前年比3割減少した事もあったそう。次の年、給料が35%カットになることに置き換えれば、臓器がもがれる心境だったはずです。それでも米国産牛肉にこだわってこられたことには、それ以前に一度、吉野家が倒産した歴史が関係していそうです。

 

すき家開業の2年前である1980年、吉野家は会社更生法の申請を行っています。つまり、倒産です。吉野家も当時、BSE以後のすき家のように、急激な出店を繰り返していたようですが、出店による収益拡大以上に負債の影響が大きかったようで、コストカットとして、牛肉の質を落としたのだそう。その品質の低下が離客を招き、不安定な経営が一気に転落し、倒産に至ったとのこと。この教訓から、牛肉を質を落とさない事をぶらさない経営姿勢が醸成されたようです。

 

こうした苦境の中での経営判断の積み上げこそ、「牛丼といえば吉野家」というブランディングにつながっているのだと感じさせられました。見た目やファーストインプレッションがブランディングやイメージ形成に大きな影響を与えることは間違いありません。そのうえで、なお何年も体力が持つブランドは、その質に圧倒的な信頼があってこそ、つまり、日々の行動の積み重ねを怠ってはいけないことを、吉野家は教えてくれているように思います。

 

高級感ある内装やパッケージ、製品デザインの一方、その提供の品質や、製品自体の品質が粗末であれば、そのブランドは長く続かない、とも言いかえられます。結局中身が大事、という事です。

 

百貨店の変化とブランディング

実は、この牛丼業界と似た動きを見せている業界があります。百貨店業界です。ここ数年間、「百貨店のショッピングセンター(以下、S.C.)化」がすすんでいます。日本橋や二子玉川の高島屋S.C.、GINZA SIX(大丸などを傘下に収める企業、J. フロントリテイリングが展開)などがそれに当たります。百貨店に展開する企業(三陽商会やオンワード、ワールド)と、ショッピングセンターに展開する企業(BEAMS、TOMORROWLANDなどセレクトショップ)が、一堂に会する施設です。

 

こういった店舗ミックスの商業施設が増えてゆくに従い、高島屋や大丸からは、しだいに「百貨店」のイメージがなくなってゆく可能性があります。どこか上品で、大人が行く憧れの場所で、なんとなく昔ながらのイメージが。そんな中、ずっとその百貨店らしさを持ち続けるお店もあるかもしれません。例えば、伊勢丹が、今のところ、それに当たります。

 

伊勢丹は、高島屋や大丸系列がS.C.化してゆく中で、従来の百貨店としての姿勢をこれからも維持してゆく考えのようです。これが、吉野家と似た姿勢であるように僕には見えます。この覚悟が伊勢丹に対してどのような未来を授けることになるのか。まだS.C.化が始まって10年もしないのでわかりませんが、この事を頭に留めて、百貨店業界を観察してゆこうと思います。

 

おわりに

僕は、何かを続けて、その代わり何かを諦める、という行動がなかなか取れない人間です。あれこれと手を出してしまいがちです。これは僕に限らずそうでしょうし、ブレずに続けられる人こそ珍しいと信じたいですが、その胆力ある人が、あるいはその胆力を獲得してきた人が、並外れたポジションを獲得しているのかもしれないと、少し反省し、背筋が伸びる気分です。

 

やりたいことはたくさんあるのですが、まずは地盤固めをしっかり行い、多角化はその後だな、と吉野家に説教された気分に勝手になっています。今現在、取り組んでいる事があるので、優先順位をその活動に絞り、しばらく一つに集中して取り組んでみようと思います。

 

参考サイト

好きな牛丼チェーン店ランキング、1位は?

牛丼チェーン店の人気ランキング、読者500人アンケートの1位は「吉野家」

もしも、あなたが「ゼンショーホールディングスの社長」ならば【RTOCS®】

 

制作:ゆるリサーチ

提供:あたまのなかのユニバース

 

 




やてん

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