ドラッグストアの拡大、イオンの収益構造からスーパーの未来を考える
最近、ドラッグストアが増えてきていると感じます。また、そのドラッグストア、少し前に食品を扱うようになったと思いきや、今度は青果まで扱うようになっています。実際、僕も食品を最寄りのドラッグストアで補充し、スーパーには月数回しか行かない状態です。
ドラッグストアの出店状況を見ると、大手は週1店舗ペースで開店する企業(サンドラッグ)もみられ、その勢いが伺えます。さらに、その出店する店舗の種類を確認すると、ほぼすべてが食品・冷凍食品、米などの取り扱いもある店舗です。
青果については、最近コンビニでも扱われ始め、こうなるとスーパーの立ち位置が追いやられているように見えます。そんな日常にズームをし、今回は食品を軸に、スーパー、ドラッグストアの未来に関して考えてみようと思います。
ドラッグストアが増えている理由
ドラッグストアが増えているの事には、二つの理由があると考えています。一つ目は「社会の要請」という点で、二つ目は「ドラッグストア自体の収益性が高い」という点です。順番にみてゆきます。
まず、社会の要請ですが、近年、地域の中小スーパーの後継者不在や財政難による閉店、あるいは大手からの買収・統合が起こっています。後者の買収・統合はまだよいものの、閉店をするお店はたいがい地方にあり、そのスーパーを頼りにして食品を買いに行く近隣住民も多い地域です。ゆえに、食品を手軽に買えるドラッグストアの出店は、そういった閉店するスーパーに替わり、ニーズに応えるものだと言えます。
そうした地域では高齢者の割合が高く、運転による事故が問題になっており、免許の返納を求めるところが多いです。一方、それでは生活が不便である、という高齢者側の意見ももっともで、日常的に食べるものすら、長い時間歩く、あるいは自転車を漕がなければならない(自転車の事故も多い)のは体力的に不便なはずです。ゆえに、スーパーが減る地方に、食品が売られるドラッグストアが出店を拡大させるのは、社会の要請として自然な流れといえます。
上述の通り、ドラッグストアの最近の開店状況は食品を扱う店舗がほとんどで、一方、都心の化粧品・ヘルスケアを中心に扱う店舗は休業をしているところもあります。また売上の部門別推移をみても、食品部門は、最近のコロナ禍において化粧品の売り上げ減少を補填して余りある状況です。経産省で集計している商業動態統計においてドラッグストアの売上の推移についてみてみましょう。以下は、国内ドラッグストアの売上高を総計した統計データから一部を抜粋したものです。
もう一つ、ドラッグストアの収益性が高い、という点ですが、ドラッグストアは、もともと利益率の高い医薬品やサプリメント、調剤部門で収益を得ていました。この利益率の高さを利用して、食品の価格をスーパーよりも安値で販売する事で、スーパーの顧客を奪うことに成功しています。そして、安い食品を目当てにスーパーから流れてきた顧客に対し、利益率の高い医薬品を買ってもらい、高収益を維持しています。ドラッグストアは、両利きである強みを活かして好循環を生み出しているのです。
以上の二つ「社会の要請」「収益性(旨味がある)」がドラッグストアを拡大させていると考えられます。
現状を確認すると、スーパーの数が2020年で2.27万店舗ほどのところ、ドラッグストアは今年2.21万店舗となり、店舗数が並んできています。セブンイレブンが全国に約2万店舗ほどありますから、ドラッグストアはセブンイレブンよりたくさんある、とイメージすれば、どれほど周りに多いのかがわかるでしょう。もはや、セブンイレブンに行く距離感でドラッグストアにも行けるようになっているのです。
ドラッグストアは、もはや専門店ではなく、日常的に訪れる最寄店であるという事です。
イオンですら、スーパーだけではやっていけない
一方、中小のスーパーではなく、大手のスーパーの経営は安定しているのかという疑問が出てきます。
結論、大手もスーパーの事業だけでは破綻してしまうといえそうです。大手で業界トップのイオンを例に上げると、イオンの利益の源泉はスーパーの事業(GMS事業、SM事業)ではなく、金融事業、ディベロッパー事業(不動産業)、ヘルスケア事業(ウェルシアという調剤に強いドラッグストア)にあるからです。
むしろ、イオンスタイルなどのGMS事業は、収益を圧迫する事業であるといえます。
ちなみに、ディベロッパー事業というのは大型ショッピングモールであるイオンモールの経営で、イオンモールに出店する洋服や雑貨のお店から、場所代として家賃をもらう仕組みのビジネスです。ゆえに、これは不動産業として位置づけられます。前回の記事で少し触れた「百貨店のS.C.化」も、この不動産業の一種です。百貨店とショッピングセンターのビジネスモデルは異なり、百貨店は不動産業であるショッピングセンターとして生まれ変わろうとしている、という事です。これについては、またいつか書こうと思います。
金融事業は、投資やクレジットカードの手数料で稼ぐビジネスで、近年における銀行業に近いです。
大手ですら、裏の顔はスーパーとしての原型をとどめていないようなのです。つまり、大手ですら、スーパーの事業だけでは安定した収益を得ることは難しくなっている、という事です。
こうなると、これまで食品や日用品を供給してきたスーパーに替わって、多角化によって財務体力を維持できるイオンなどの大手と、ドラッグストアのような両利きの経営が可能な店舗が残ることになるように感じられます。ドラッグストアが青果を取り扱い始めたのは今後の予兆であり、ドラッグストアは、より食品を強化してくるでしょう。そしてドラッグストアと大手との棲み分けは、PBなどへの愛着や、ラインナップの幅になってゆくと考えられます。
この二極化の中で中小のスーパーはもはや役割を終え、舞台を降りることになるのでしょうか。今の形を維持した生存は難しいとは思いつつ、スーパーは役割を変えれば生き残って行けると僕は考えています。
社会を分ける壁(言葉)が変わりつつある
大手スーパーにも、ドラッグストアにもできない事があります。ある領域に特化をし、企画・製造・販売を一気通貫で行う事です。これは、個人のお店が勝負する方法でもありますが、最近、地域の端っこでリノベーションを行い、特化型の施設に替わっている事例を見かけます(たとえば、こちらのサイトで公開されているもの)。
僕は、こういった個別のお店が街に増えてくるのではないか、そして、街自体が広い商店街のようになり、ドラッグストアは自身の存在を「デイリーストア(日用品・食品を買う場所)」、ショッピングセンターは「フードモール(多様な品揃えの中から顧客が選べるお店)」、そして、中小スーパーは八百屋やマニアックな雑貨店などの「商店」に役割を変えてゆくのではないか、と考えます。
名前については、より適したものが今後現れると思いますが、これまでの名前で社会が動いてゆくのではなく、新しい名前と分類のされ方に替わってゆくちょうど過渡期に自分は生きているのかもしれない、と感じます。
おわりに:人の老化と商業形態の関係性について
ドラッグストアは、2000年時点では1.2万店舗ほどだったようで、2021年現在、2.21万店舗ということは、年間500店舗ずつ増えたことになります。20年という歳月で、高齢化に拍車がかかり、移動困難な方も出てくるし、そうなれば商圏に関しても考え直さなければなりません。それゆえ、ドラッグストアとスーパーの境界が少しずつ移動していったのでしょう。
人の移動様式が変われば、商業は変化を迫られる、ということです。そして、人の老いが人の移動様式に影響を与えることから、人の老いが、商業の形態を変えてしまう、という事です。これはなかなか示唆深いです。他の領域に関しても応用できそうな考え方だと僕は感じます。
例えば、駅直通のショッピングセンターはどうなるのでしょうか。電車でしか、つまり歩きや自転車を駆使しなければこれまで行けなかった場所は、どんな商業地帯になるのでしょう。
具体的に言うと、渋谷駅で人を観察していると、京王線で神奈川県や東京郊外から訪れる人と、メトロ銀座・半蔵門線やJR山の手線で都内から訪れる人には、ファッションに違いがあります。どちらかというと、京王線から降りてくる人の方が若く、露出が多かったり、ダメージが入っていたり、気合の入ったファッションをしています。これぞ「渋谷」なイメージです。つまり渋谷は、都内の人が多く訪れる場所というより、郊外から若者が遊びに来る場所である、ということです。
現在、渋谷周辺は都市再開発がされ、様々な商業施設同士が連結し、一つの大きな商業都市になりつつあります。2019年には、渋谷のパルコもリニューアルされています。しかし、今後、高齢化がさらに進行し、渋谷でお金を落としてくれる若年層の移動が徐々に減っていったとき、渋谷はどうなるのでしょう。それこそ20年後、渋谷にはどんな事を求められるようになっているのでしょう。
それを予測するヒントが、今、勢いがあるドラッグストアの進出にあるかもしれません。おそらく、このドラッグストアの動きだけでなく、今後様々な領域で、商圏の再定義が行われるようになるかと思います。今後、そういった予兆を見つけたら逃さず、分析してゆこうと思います。
制作:ゆるリサーチ
提供:あたまのなかのユニバース