今、日本の消費者は何を求めているのか。経済の分析からわかること
今回の記事は、日本の経済の状態について、簡単な分析をし、まとめたものです。そして、そこから一歩話をすすめ、少し先のことを、想像してみます。
調査の背景も、動機も、前置きもなしで、さっそく始めましょう。
GDP(国内総生産)は、緩やかに増加はしているが・・・
まずは、国の経済活動の総体であるGDPの推移から見てみます。
ご覧の通り、微増しています。不景気不景気と言われてはいますが、お金の流れ自体は増えているようです。
もちろんこれだけで楽観できるはずもなく、これをもう少し細かくみてみてみると・・
国内総生産とは、国内の生産者(サービス提供者)が生産したものを、その国内で人が消費した金額の合計です。
その消費額を、消費した者ごとに分けてみると、政府の支出増加と、民間・政府の固定資本形成(投資・設備投資など)がそのまま上乗せされて、GDPが増加していることがわかります。つまり、民間最終消費支出(家計・NPOの消費支出)が増えているわけではないことがわかります。
家計の支出先には変化が見られる
では、変化のない民間最終消費支出に関して、もう少し詳しく見てみましょう。内訳には変化があるかもしれません。
以下は、ここ10年の家計最終消費支出(民間最終消費支出からNPOの収益などを除いた家計の支出額)の内訳です。
住宅・インフラが飛び抜けて高く、他の項目の推移が見づらくなっています。住宅・インフラの推移は横ばいで10年間の変化もほとんどないようなので、このグラフから除きます。
はっきりと変化がわかるのは、「外食・宿泊サービス」と、「交通」です。これはコロナウイルスの感染拡大による消費控えです。
では、伸びているものはどうでしょう。
上述の減少傾向とは違って、伸びに関しては緩やかなものですが、情報・通信に関して伸びていることがわかります。
次に、保険・金融サービスです。こちらについては、後で別の分析をします。
そして、「家具・家庭用機器・家事サービス」です。「家事サービス」はこの項目のうち、1割にも満たない計上額で、なおかつ増加傾向が見られないため、省略します。
上のグラフだとその増加傾向もわかりづらく、消費の背景も読み取れませんが、これを家具と家電に分解すると、あるトレンドが見えてきます。
このグラフから分かる通り、耐久財にかける額のうち、家具に使っていた額が家電などの製品へ移動していることがわかります。
この流れは、高性能な高額家電によるものです。また、無印良品やニトリ、IKEA、通販などで廉価な家具が購入しやすくなった時流の影響も重なって、家具の支出を抑えやすくなっていることも考えられます。
高性能な家電と合わせて、見ておきたいものがあります。ここ10年横ばいではありますが、食費のその利用形態です。
調理食品の比率が高まっています。コンビニの加工食品(弁当)やOisix社などのミールキット、冷凍食品がこれに該当し、調理の簡便化に対するニーズが少しずつ伸びていることがわかります。また、農水省の予想では、この市場は今後も伸びてゆくと考えられているようです。
つまり、料理や洗濯などの家事をなるべく効率化しようという流れが、ここ10年間大きくなってきていると考えられます。
ここまでは、家計の支出面に注目して、消費の動向を探ってきました。では、後回しにしていた投資について、見てみましょう。
投資への関心が高まっている
楽天市場で販売しているビジネス書を売上順で上位から見てみると、投資に関連する本が多いと感じます。
試しに、1位から100位までの書籍タイトルを抽出し、そのタイトル中に含まれる単語をカウントし、ベスト20で棒グラフを作ってみました。
「金」「投資」「NISA」とか、「株」までありますね。「簿記」「FP」「日商」「財務」「経済」など、お金に関わるテーマが資格ともに人気であることもわかります。それだけ、皆お金に対する関心が高いのでしょう。
Oggiなどのファッション誌ですら、OLの給料事情と称してNISAやiDeCoにいくら投資しているのかを特集するくらいです。「NISA」という単語を、意味は知らずとも聞いたことがない日本人は、ほとんどいなくなったのかもしれません。
また「思考」「術」「法」など、なにがしかの「やり方」「考え方」を多くの消費者が求めていることもわかります。「なるべく無駄なく学びたい」、という心の声の漏れを感じます。
一旦整理しておきます。「効率を求める流れ」と、「投資熱の流れ」、この2つの傾向が、ここ10年で、消費支出を占める割合を高めていることが、GDPの推移から読み取れました。
実はこの傾向は、生産側でも観測できます。次は、それを産業別に見てみることにします。
効率化を支える産業たち
これまでは、GDPを、支出する主体(家計・政府)で見てきました。今度は切り口を変えて、経済活動別のGDPの内訳を見てみます。
赤く記したのは、ここ10年でGDPが増加傾向にあるもので、青く記したものは、ここ10年で減少傾向にあるものです。
電子部品・化学(半導体関連産業)、情報・通信業、小売業(この要因は、ECの伸び)はここ10年で伸びています。
金融・保険業に関しても、伸びていることがわかります。
また、「専門・科学技術、業務支援サービス業」に関しては、システム開発やクラウドサービスの市場拡大、ECの伸びに貢献する、SEO、web広告のトレーディングや配置などを含む、最適解の提供、つまりコンサルティング業務の拡大が大きいかと思われます。
「効率」は経済の維持に貢献しており、また、投資も、経済を拡大させているといえそうです。
高効率を求める世の中は、あるものを求めるようにもなる?
ここまでの思索を整理しましょう。僕ら日本人の消費は、総額に変化はほとんどありませんが、その傾向にはいくつかの変化がありました。そしてその傾向は、以下の2つのトレンドにまとめられると考えました。
- 高効率(便利・時短)には金を払いたい
- 貯蓄よりも投資へシフトし、賢く資産を増やしたい
僕はこの結果を見て、ずいぶん殺伐とした世の中だと感じました。もしかしたら、今、社会にある閉塞感は、皆が効率を追い求め、自分も周りもせっつくような意識が根底にあって生まれているのではないかと感じます。
そんなことを思っていたとき、ふと、以下の仮説が生まれました。
「サウナが流行っている理由は、健康増進のためだけでなく、直接的なストレス解消法だから?」
というわけで、雑な分析ではありますが、おおよその趣味のリストを作り、それと「ストレス解消」との意味の類似度を算出しました。
ここ数年で市場が成長し、流行った、あるいは流行っているさなかの趣味は、そのほとんどが、他の一般的な趣味に比べて「ストレス解消」との類似度が高いことがわかります(最大値は1で、最小値は−1)。
ちなみに、このうち上位6つに関して、それぞれに関して類似度の高い単語を調べましたが、ストレス解消(リラックス)以外に便益を意味する単語が出力されませんでした。つまり、「ストレス解消(リラックス)」は、これら6つの活動に共通する大きな便益であると推察されます。
もちろん、感じ方は人によって様々です。また、この結果は、類似度の数値の算出に用いた元のデータ(ChatGPTの言語モデル)が、僕らの感じ方を正確に体現してくれているとの前提からくるものです。ですから、過信はできません。
ただ、そもそも言語モデルの学習には僕ら人間が書いた文章データをコーパスとして用いますから、そこまで現実での僕らの感じ方と乖離があるはずもなく、必ずしも現実離れしているようにも思えません。
僕ら日本人は、自らの生活を楽にするために効率を追い求める一方、自らも効率を要求される社会からのストレスをより強く受けることで、それを超える直接的なストレス解消法を希求するようになってきた、と考えることもできるかと思います。
面白くなってくるまでに時間が必要な趣味(工芸など)は、もしかしたら今後、より少数派の趣味になってゆくのかもしれません。
今後の日本経済の動向を妄想してみる
僕は、この「高効率↔ストレス解消」の社会の構図は、手放しでいればそのままより極端になってゆくと考えます。
その両極の「高効率↔ストレス解消」社会に嫌気が差している(少なくとも、僕はあまり今の状況が好きではない)ならば、僕らは今後、どのように生きてゆけばいいのでしょうか。
これについて、現時点で答えが出ていませんが、僕は、「中道」という概念がキーワードになってくると考えています。たいてい、このような両極の概念を打ち崩す新たな思想は、両極なものの調和によって生まれるからです。
そして、「中道」をみつけるために重要な行動として「非経済的かつ継続的な趣味活動」というものを、僕は提唱します。各人が興味があることをコツコツと続けることです。
これは、「いずれは何かに化ける可能性がある、経済活動のタネ」でもあります。金銭化を狙いにいこうとは思わないけど、それに思わぬ形で社会性が追いつき、新たな経済活動として評価されるようなことは、過去にもありました。
YouTuberも、GoogleもFacebookも、その例です。はじめはこんなに稼ごうなんて、彼らはみじんも思っていなかったはずです。今はどうかわかりませんが、はじめた当時は、障害ですらストレスどころか楽しみの内だったはずです。なぜなら、やってみたくてしょうがないことだからです。
より多くの人が、自分がストレスをあまり感じずに興味・関心を育て続けられるかどうかが、この両極のストレス社会を切り開く鍵になるのではないでしょうか。
投資も貯蓄もほどほどに、このタネに栄養を注いではどうか、と思うのです。
そう思うと、「投資熱」には、現在への諦めを感じもします。外国や全世界への投資で収益を出そうと考えるのは、もはや日本に希望がないと考えてのことかもしれません。
皆さん、貯蓄と投資はほどほどに、自分への研究開発費についても、予算を組んでみませんか?僕らが守りに入れば入るほど、日本の経済も、国庫も、守りに入ります。「やる意味」とか「効率」ではなく、自らの直感に従って、自身の研究開発という「非効率な投資」、やってみませんか。