民藝と科学が織りなす、柳宗理のキッチンツールの魅力について

最近、2Lくらい入る中型?の鍋(いわゆるソースパン)を買いました。

 

パスタを茹でる大きな鍋は持っていましたが、ソースパンは買わずにいました。というのも、僕は鍋代わりに、フライパンでスープなどを調理していたからです。

 

以前の記事で紹介したアルミフライパンでスープをつくり、もう一つの鉄のフライパンで、カレーなどを作っていました。

 

「フライパンでなんとかなるじゃん」とも思っていたのですが、最近ハマっているそばを茹でるとなると、さすがにフライパンだと厳しいです。

 

これまでもソースパンがあれば便利とも感じていましたし、一人暮らしを初めて5年くらい経って、ようやくソースパンを買うことにしました。

 

さて、買うとなれば、またひと悩みです。何を買うのか。

 

当初はデザインがスタイリッシュなツヴィリングプロのソースパンを買おうと思っていたのですが、渋谷の東急百貨店に出向いたときに出会った柳宗理(読み:やなぎそうり)の鍋が、驚くほど手に収まり、しかも軽く、一瞬でそれに決めていました。

 

買ったらこれがまた驚きで、買うまで忘れていたのですが、僕は柳宗理のキッチンツールをこの鍋以外にも多数持っています。

 

パスタパン(大鍋)、おたま、ボウル(5種)、ザル、そして、今回のソースパン(中鍋)。

 

「柳宗理で揃えよう」と思って買っているわけではないはずなのですが、なぜか、家に柳宗理のキッチンツールが増えてゆきます。

 

今回は、「なぜか良い」「なんだか良い」柳宗理のキッチンツールについて、何が魅力なのかを考えながら、ご紹介もできればと思います。

 

機能美:手に馴染み、使いやすい設計

柳宗理の魅力を語るとなると、大きく2つの魅力に分けられると感じます。まずはそのうちの1つ目、「機能美」について、考えてみます。

 

柳宗理のキッチンツールには、それぞれに独特なポイントがあります。少し傾いていたり、真円じゃなかったり、以外なところに丸みをおびていたり。そうかと思えば、丸みがあるはずのところに意外となかったり。

 

形を見ると、「少々独特だな」と思うのと同時に、「この形だと、どのように使いやすいのか?」とよくわからないときもあります。

 

しかし、使ってみると、「なるほど、よく考えられている。」と、膝をたたきたくなる設計に驚きます。

 

キッチンツールというと、ビタクラフトやバーミキュラーが強いですが、柳宗理がこの流れに入ってゆけない一つの理由には、この「使う前には気がつけない」ことがありそうです。

 

さて、その柳宗理の「ここがすごい」と感じるポイントについて、いくつか具体例を挙げてゆきます。

 

鍋の少しだけずれた注ぎ口の位置

これは、今回即決で購入に至った鍋です。

注ぎ口があり、蕎麦湯が注ぎやすそうであることは、買う前から気がついていましたが、この注ぎ口が少し変だというのは、買って使い初めてから気が付きました。この注ぎ口、中心から少しだけ奥側についているのです。

 

使ってみて気がついたのですが、鍋から何かを注ぐとき、だいたい僕は鍋を横に傾けるだけでなく、奥にも傾けています。

 

この注ぎ口のズレは、鍋を奥側に傾けることを想定した設計であり、使ってみて、あら不思議、とても注ぎやすいです。一人なのに「すごっ」と声を出してにやけてしまいました。

 

おたまの謎の曲線美

これまた不思議な曲線を描いています。この曲線は、僕らがどのように鍋から料理を掬うのかを徹底的に計算した結果生まれた曲線だと思われます。

おたまを使うとき、脇を開いて、腕と手首をクルッとねじって料理を掬います。その腕と手首のねじり具合を計算に入れた設計のおたまです。

 

また、縁が鍋の円に沿った形をしているので、鍋の肌についたカレーなども掬いやすいです。

 

ボウル・ザルなのに丸みがない

今度は、謎に丸みのないボウルです。容量が少なくなるし、使いにくそう、と見えますが、実はものすごくヘラでこそぎやすいです。このボウルの中に入れてあるカットした食材や合わせ調味料は、とても鍋やフライパンに加えやすいのです。


 

ちなみに、この丸みのなさはザルにも同じことが言えますが、丸みを帯びていないので、鍋からあげた蕎麦を皿にあげるのもとても楽です。


どちらも、容量が一般的なものよりも少なくなりますが、作業性は抜群に良いです。またこの網目、金網ではなく絞りをきかせた穴抜きの板を用いることにより、丈夫でかつ洗いやすくしてくれてもいます。

 

以上が、柳宗理のキッチンツールの機能美についての具体例です。おそらく、ここで挙げた例にとどまらず、鍋の広さと深さ、そして取っ手についても、相当念入りに設計されているはずです。また使っているうちに気がついたことがあれば、追記してゆこうと思います。

 

次に、柳宗理のもう一つの魅力「自然美」について、考えてみます。

 

自然美:キッチンに溶け込む、伝統的な造形

柳宗理のキッチンツールは、とても物静かなデザインです。個性的な形をしていますが、基本的に艶がないステンレスのシルバーと、取っ手の黒い樹脂。この二色です。色鮮やかなココットなど最近のキッチンツールに比べると、百貨店の売り場でも目立つ存在ではありません。

 

しかし、不思議とキッチンにやってくると、そこにいるのがあたかも当然、自然であるような佇まいを感じます。

 

実はよく見ると、柳宗理のキッチンツールのデザインは、昔ながらの伝統的なキッチンツールの形を基礎に置いています。丸みを帯びた鍋底やふたの形など、昔から日本で作られてきた、どこか懐かしげなデザインを取り入れています。

 

柳宗理のキッチンツールは、その伝統的なデザインに、人体工学と、科学の叡智である頑丈な素材(SUS304、あるいは18-8と呼ばれるステンレス)を融合させたものなのです。

 

この伝統を重んじたデザインの奥には、父親の柳宗悦(読み:やなぎむねよし)の存在があるのではないかと感じます。柳宗理(本名は、むねみちと読ませる)の父である柳宗悦は、民藝運動を起こした方で、「日常にある美」を大切にされた方でした(参照:https://www.nihon-mingeikyoukai.jp/about/souetsu/)。

 

宗悦は、一点物の芸術品ではなく、伝統的な食器や道具を、職人が自身の生活のために絶え間なく作り続ける中で至る「無心」こそ、美しいものを作ると考えていたようですが、宗理にもその考えが受け継がれていることを、彼がデザインしたキッチンツールから感じずにはいられません。

 

確かに、柳宗理の製品は、売り場でおしゃれなキッチンツールと見比べると、少し主張が足らないデザインに見えます。ところが、これがキッチンにいると、とてつもなく似合い、「なんだかとっても良い」のです。

 

使っている最中は、人体工学、つまり「使いやすい、機能的な設計」の部分が顔を出すのですが、一方、コンロに置かれているのを眺めていると、この伝統的な造形が今度は主張してきて、不思議とキッチンに似合うのです。この二面性が、ユーザーを虜にしているのではないでしょうか。

 

「民藝✕科学」、だから、柳宗理は良い。

先述しましたが、現代科学(人体工学・素材)と、伝統的なデザイン。これが、使っている最中と、眺めているときで違った顔を見せてくる。

 

このギャップと言うか、二面性が、ユーザーを虜にしているのではないか。そう結論づけました。

 

しかし、ただ使っているだけだと、なんとなく良いんですが、何が良いのかは分かりづらいものです。

 

今回、それを言葉に起こしてゆく中で、改めて柳宗理のキッチンツールの良さを実感できました。

 

キッチンツールは、一回買えば長く使うものです。使いやすいものを、と思うのであれば、容量などを検討のうえ、柳宗理も検討してみてはいかがでしょうか。

 

使ってしまえば、きっと柳の世界観の虜になります。

 

 

製品のご紹介

今回紹介した、柳宗理シリーズです。ご興味あれば、見てみてください。

やてん

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