農水省で行われた「肥料取締制度に係る意見交換会」の議論内容を整理してみた。

作物を化成肥料で育てると、土壌は痩せてゆく

なんか、そうらしいね、的なことはどの方もご存知だとは思うのですが、実際に土壌環境どうなってるの?と言うデータは、メディアではほとんど取り上げられないので、知らない人の方が多いでしょう。

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一番下の行の「収支(in-out)」に関してご覧いただきたいのですが、この数字がマイナスの場合、土壌へ養分を補給しても、最終的に土壌内の養分は減っていることを意味します。

この表の全てを解説する必要はないので、とりあえず、一番左端の、N(窒素分のこと。植物の葉を作るのに重要。)の食用米の部分だけを見てゆきます。食用米はどなたにとっても関心ごとだと思いますので。

食用米は先ほど述べた「収支」がプラスだから安心かと思いきや、これが野菜になってくるとどうでしょうか。イネの場合、収穫し終わった後に、余る稲わらの部分を畑へ再度投入します。この稲わらが徐々に土壌中で新たな養分へ変わるのですが、野菜の場合、収穫した残渣は全て燃やします。

つまり、イネの場合にプラス収支が+1.27でも、投入する(はずだった)稲わらの分(4.2)が差し引かれるので、トータルではマイナスです。もちろん、野菜の場合は食う養分量も変わってきますが、イネはわらを入れているからプラスを保っている、というのは、今見ている欄の二つ左のWCS(飼料用で、米の部分もわらの部分も全部まとめて収穫する)を見ればマイナスである事がわかると思います。

一回でこの程度のマイナスでも、同じやり方で毎年マイナスを積み上げると、土壌の養分はどんどん減って、やがて土壌は痩せてゆくのです。

土壌は栄養過剰と栄養失調の両方を患っている

その上、限られた肥料の投入を行ってゆくと、土壌中でバランスが欠落してゆきます。バランスが崩れると何が悪いのかは、皆さんがビタミン不足で忌々しい口内炎を患ったことを思い出してもらえたらいいと思います。

そんな風に、何かが足らなかったり多すぎたりするせいで土壌のバランスが崩れると、作物が吸収する養分にも偏りが出て、その作物は口内炎もちになります。これも結構致命的です。ご経験あると思いますが、一旦どこかが悪くなると、そこが気になって別のところも悪くなったり(骨折で使えない部分を庇ったりするときによく起こる)します。作物においても同じで、免疫が低下すると、一気に病気になったりします。

では、健康な体を作るための土壌はどうかと言うと、バランスが崩れまくっているのです。「窒素があればとりあえず葉が育つ」、とか、「N、P、K(肥料の三要素。人間でいう、炭水化物、タンパク質、脂質並みに重要な養分)さえ取れれば大丈夫」という考え方の元、同じ化成肥料を使い、吸えもしない養分を土壌に補給し続け、足らないものはとことん足らず、過剰のものも、とことん過剰、という状態が出来上がったのです。

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上の図は、ミネラルの乱れでほうれん草がしっかり育たない、という事例について話しています。ミネラルには三要素(Ca、Mg、K)あるのですが、それらの土壌中でのバランスが重要だと言われています。上の図を端的に述べるなら、「K(カリウム)が多すぎるので次回は肥料を入れないでください」です。K(カリウム)は上で述べたように、作物の生育に重要で、多量に要るはずで、毎回肥料を入れることが当たり前になっていた養分です。

そのカリウムを入れなくても良いというのは、「今までの施肥方法を続けてはいけない。」ということを僕らに教えてくれています。

有機物を簡単に投入する仕組みが必要

だったら有機物をたくさん入れようってことになりますが、簡単ではありません。土壌の質を買えるだけの堆肥は、だいたい1000㎡あたり2tくらい必要です(これは僕が土壌診断を何件も行ってきた平均です)。

2tの量は、結構半端ないです。それを畑全体に広げて・・というのは、非常に骨が折れる作業なのです。これが、前回の記事でも述べた、「高齢化による堆肥投入の減少」につががっているのです。

それを解決するのも、前回お話しした、混合堆肥複合肥料です。化成肥料と有機肥料となる堆肥を合わせた肥料です。やはり、土壌の改善の面でも、この肥料は期待されているようです。

土壌診断を行って何が必要かを知る

肥料にて有機物を入れる工夫をするという面ともう一つ、土壌診断を行うことも重要だと考えられているようです。先ほどのホウレンソウの例もそうですが、畑は、現在大荒れです。これは言及されていませんでしたが、天候の変化で生育への影響が大きくなるのは、土壌から吸い上げる養分も偏っているからだと僕は考えています。

今後、天候は毎年変わるでしょう。エルニーニョ、ラニーニャなどの寒波、暖冬、酷暑も考慮しなければなりません。そのためには、まず、自分の土壌を知る。何が多いのか(与えなくても良いのか)。逆に、何が足らないのか(何を与えなければならないのか)。それを、有機成分合わせ、どのように投入するか。

そんな分析的、かつ計画的な思考が個々に求められていると、議論されていました。

土壌診断に関しては僕も前職で何件も見ましたが、改善すると驚くほど変わります。トマトの収穫段数が伸びたときは思わず農家さんとガッツポーズでしたし、キャベツのネコブ病の発症畑にて発症を抑えられたりもします。

さて、ここまでは「肥料」の課題に引き続き、「土壌」に関しても整理してきましたが、最後に、「制度」の問題に関しても整理してゆきます。

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やてん

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