収量は、物理性改善でもまだ上がる 土壌医の会、土作り推進フォーラムのシンポジウムに参加して
明渠で排水性向上。資材を使わずに秋落ちを改善。
明渠とは、暗渠のような見えない排水路ではなく、見える排水路です。要は、城の堀のように水が流れていく通路のことです。
原始的と思われるかもしれませんが、これを作ると驚くほど、畑に溜まった水が抜けてゆきます。この研究の背景には、秋のぐずつく天候のせいで、田んぼに漉き込む稲わらを春までに分解しきれないことがあります。基本的に、稲わらは米の収量と同等の重さが田んぼから出るとされています。
その稲わらは、土に漉き込み、微生物の力で分解させ、次の作の養分にする目的で再利用されます。また、以前は家畜の餌にしていたそうですが、畜産農家が減少したこともあり、遠方まで持っていくのも面倒、と言う理由もあるようです。
稲わらの鋤込みは、秋のまだ気温が高い時期に行われるのが本来です。ただ、最近は秋に台風が何度も直撃したり、強い雨が三日おきに降るようなことが普通になってしまっています。例えばコシヒカリの収穫が9月ごろまでに終わるとして、乾燥した稲わらをすき込めば、まだ暖かいので微生物も元気に稲わらを分解してくれるはずなのです。
しかし、最近は秋にトラクターが田んぼに入りづらくなっているため、ぐずついたまま冬になり、微生物が動かなくなってしまい、十分に乾燥、あるいは分解がなされなくなってきているのだそうです。そのまま春になり、見分解の稲わらがあるまま田んぼに水を入れてしまうと、酸素が遮断されてしまい、稲わらが腐ってガスを出すようになります。このような状態だと根を傷めやすいのです。もちろん根が傷むと、収量は落ちます。こういう現象を、日本では昔から「秋落ち」と呼んでいます。
そこで、明渠を作ることにします。
こんな風に、田んぼの周りを全て硬い堀のようにしてしまえば、すっと水が引いてゆき、秋にぐずつくのを防げるのだそうです。
この実験は、移植ではなく、直播栽培で、発芽をしやすくするために行っていますが、この条件は秋落ちの影響を取り除く昔からある一方で画期的な方法と言えます。昨今、鉄の不足が秋落ちの原因では?と言われたり(鉄はイネの根の周辺に集まって有害なガスから根を守ってくれる)しており、やはり切り口が化学性に偏っていると感じます。
今回、この成功事例もありますし、ぜひ堀を作って、水田をガス田にするのではなく、地力を上げるために稲わらを鋤込んでもらえたらと思います。可能ならば、絶対やったほうがいい、とのことです。