「深い知見」という芸術 下町ロケット ゴースト・ヤタガラス総評

スペシャル含め、ドラマが年始で終わったようなので、改めて、下町ロケットゴースト、ヤタガラスに関して、整理しようと思います。ゴーストについては以前の記事で経営戦略の視点で整理しましたので、そちらも読んでいただけたらと思います。

 

また、少し遡ったところで、「企業の社会的責任」に関して、ゴースト、ヤタガラスを通して考えた記事も書きましたが、そこでは触れられなかったことを主にお話ししようと思います。

 

農業を、研究をまるで見てきたかのよう

一番驚いたのは、作品のリアリティです。ドラマのみをご覧の方には少々受け取りづらいところがあるかもしれませんが、今作は下町ロケットシリーズの内では結構クールな作品でした。互いの腹の探り合いは、本当に大会社の中にいて、実際にある事例を元にしているかのようでした。

 

また、農業・研究に関しても、実際にそのような経験をなさったのかというレベルのリアリティです。農業で言うなら、殿村の豪雨に対する悔しさは、自然の豊かさの中にある厳しさを、等身大で表現なさっていると思います。

 

研究開発に関しては、以下のセリフが研究の本質を説いていると感じます。

研究開発にはいろいろなものがある。中には基礎研究のような、重要だけれどもそれがどんな風に実用化され、世の中に貢献するか想像すらつかないものもある。だけど、野木ーお前の研究はいい。日本の農業が抱える問題と真正面から取り組み、成果を上げることができる。一般の人たちに、ああこれで救われたって、そんなふうに思ってもらえる技術はそうはない。まさにブレークスルーだ

下町ロケットシリーズの主人公で、佃製作所の社長、佃航平が、大学の元同級生で農業機械の自動運転のシステムを開発している野木に言うセリフです。このセリフは、野木の研究のような実用研究を良い研究とは言っていないところが、研究の本質の理解を伺わせてくれます。

 

トラクターの自動運転などの実用研究は、その重要性がわかっている時点で、普通です。もちろん実用研究も、実現するまでは大変です。しかし、今何の役にも立たないと思われがちな基礎研究には、将来の発展への投資という意味があります。いつかどこかで、その研究が役に立つときがくる。そのために、今、将来への投資として、まだ、実態がわかっていないものについて追求してゆく。これが基礎研究の本質、「真理の探究」なのです。

 

これは、時代が基礎研究に追いつき(基本的に、基礎研究は常に時代の先を行っている)、基礎研究が利用されるようになったときに、その研究が社会に与えるインパクトがどれほど大きいかを知っている人だからこそわかることです。つまり、作者の池井戸さんは、基礎研究・実用研究の両方の重要性を理解しているのです。

 

取材や知見の深さが、研究の現場、農業の現場を描くシーンから読み取れます。下町ロケットシリーズのなかで、もっとも作者の池井戸さんの取材の深さを感じることができる作品だと感じます。

 

企業理念・事業理念とは、こういうものだ

本作は、登場する複数の企業がそれぞれ連合して、互いに農業機械で競い合うストーリーでした。帝国重工・佃製作所・野木連合(アルファ1陣営)と、ダイダロス・ギアゴースト・キーシン・北堀連合(ダーウィン陣営)の2つにわかれています。

 

ダーウィン陣営は、市場へのトラクター投入こそアルファ1陣営より早かったものの、不具合が多く、最終的に農家を困らせる結果となってしまいました。不具合の原因は、トランスミッションにありました。アルファ1陣営は、その問題を天才・島津裕のアイデアを活かし解決し、ダーウィンの後続で市場へ参入しトラクターを販売。質で勝るアルファ1は、徐々に市場から信頼を得てゆきます。

 

本来なら、ダーウィンは競合のトラクターですから、アルファ1陣営は不具合のトラクターに対して何の責任を感じる必要も無いはずなのです。しかし、佃製作所のミッションは、「日本の農業を救う」でした。佃製作所は、その理念を思い出し、ダーウィンに、手を貸すのです。

 

企業とはビジネスを行うものです。佃も自分で自分のことを「商売下手」と言っていますが、そこで競合の手助けをするようなこと、取らなくて良いはずなのです。でも、農家を助けずに、どうすると思える、その素晴らしい理念には、たくさんの読者が心惹かれたのではないでしょうか。世の一族経営企業がこのように事業理念を持ち続けられたなら、きっと日本は、もっと発展するのだろうと思いました。

 

今後も下町ロケットに注目

下町ロケットの話を家族で話したときに父親が「下町ロケットは結局同じストーリー」と言っていました。この父の意見は、全くもってその通りとも言えますし、そんなことはないとも言えます。

 

「結局同じ話」と言ってしまうのは、話の骨組みやストーリーの波だけを見ればその通りですが、僕は、それよりも下町ロケットが扱う「コンテンツ」にこそ、下町ロケットの凄さは宿っていると思います。「神は細部に宿る」を体現している作品です。

 

小型エンジンにせよ、ロケットのバルブにせよ、心臓の人工弁にせよ、トラクターのトランスミッションにせよ、それらを調べ上げ、ストリートしてそれら技術や、それを使った経営の面白さ素晴らしさをいろいろ教えてくれる作品は、そうはありません。

 

下町ロケットには、次回作にはどのような題材でストーリーを書くのか、という楽しみがあります。ストーリーも楽しみですが、個人的には芸術とも呼べる、池井戸さんの取材の成果にこそより心惹かれます。

 

次回は、どんな作品が生まれるのか。楽しみに待っています。この記事を読んで、下町ロケットの面白さに共感、あるいは、気づきを得てもらえたら、幸いです。

やてん

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