戦略、マーケティング・・経営理論盛り沢山!池井戸潤作品「下町ロケット ゴースト」

最終更新日

Comments: 0

こんにちは、やてんです。先日、無事中小企業診断士の試験を終えました。来年決着をつけて2次試験にも挑み、晴れて合格してみせます。

 

さて、読みたいと思いながらも試験勉強を優先させていましたが、ようやく試験が終わりましたので、読書に着手しようと思います。僕が今回読んだ本は、「下町ロケットゴースト」です。


下町ロケットはシリーズもので、過去2作品があります。
「下町ロケット」:ロケットを飛ばすための部品を開発する物語です。
「下町ロケット2 ガウディ計画」:心臓の逆止弁の病気で苦しむ子供達のために、人工の逆止弁を開発する物語です。

 

作者の池井戸さんは、下町ロケット含む各作品で、かなりマニアックな領域を作品の焦点にします。「ロケット」「人工弁」「地下足袋」「カメラのセンサー」・・。そして今回は、「トラクターのトランスミッション」です。農業畑の自分としては、テンションが上がりました。さらにいうなら、実は本作品は2部作の前編に当たるのですが、次作が「下町ロケット ヤタガラス」であることが既に判明しています(2018年秋発売予定)。

 

この「ヤタガラス」とは、準天頂人工衛星のことです。準天頂人工衛星は、例えば日本が実際に打ち上げた「みちびき」をモデルにしていると思われます。お察しの方もみえるかもしれません。実はこの「みちびき」は、トラクター含め、農業に非常に関わりが深いものです。気象予報が今までよりも正確になりましたし、GPS操作による無人トラクターなど、「みちびき」は、農業の成長に貢献するであろう立役者です。そんな背景もあって、続編でヤタガラスとトラクターが絡んで展開が進んでゆくのでは?と今から楽しみです。

 

熱くなりましたが、今回僕が本作について紹介したいのは、農業に関してではありません。当作品は、池井戸さんの他作品に比べて、新製品開発の手法、経営に対する考え方、戦略フレームワークなど、企業経営に関する情報が盛りだくさんで、その点でも見応えがあるのです。

 

下町ロケットといえば、特許に関する逆転裁判はもはや名物ですし、情熱的な技術者達の思いなど、感動や情熱が先行してしまう作品ではあります。僕自身、「ガウディ計画」ではボロボロに泣きました。でも、熱い一方、クールなところもあるんです、池井戸作品は。

 

今回の記事は、クールな下町ロケットの紹介です。「下町ロケット ゴースト」に興味を持っていただくか、あるいは別の視点から読んでみるきっかけを差し上げられたら、幸いです。では、見所に関して述べていこうと思います。

 

1.競合とのポジション争い、新市場開拓、差別化戦略

多くの中小企業は、その分野に精通しない人にとっては「細かすぎて伝わらない」とも思われる、独自の強みを持っています。そして、その強みを活かして、取引先へ協力をし、ひいては消費者の悩みを解決するのに貢献します。

 

「自社の強み」と言っても色々あります。ある製品が特許で守られている場合は、その製品自体が他社には真似できないので、その技術自体が強みになります。また、従業員が試行錯誤の中で改善を続けて培ったノウハウなど、人の中に構築されていくような、目に見えない「情報」も強みとして考えられます。専門的には「模倣困難性」とも呼ばれる「強み」は、自社の市場価値を高め、取引先へアピールする武器になるものです。

 

今回の「ゴースト」は、前の2作品よりも登場する企業の数が多いため、各競合の企業の「強み」やそれを活かした戦略などが語られるシーンが多いです。物語の主役、佃製作所でも、特に競合との差別化に関して、何度も深い議論を展開しています。佃製作所はいつも通り、自社の強みである、技術者達の「技術力」と「品質の高さ」で、新しい市場へ挑戦をします。

 

そこで佃製作所の面々は、僕が見ただけでも戦略決定に関する重要な以下の項目について、議論をしています。

  • 新しい市場へ挑戦する際の市場の調査(参入は可能なのか)
  • 競合の製品の調査(リバースエンジニアリング)
  • 自社と競合の強み、弱み、機会、脅威の分析(SWOT分析)
  • 各取引先との交渉力の強さの分析(ファイブフォース分析)

小説としても読めるし、実際の経営現場でどのように戦略を考え、経営判断が行われているのかを観察することもできる、2度美味しい作品です。

 

2.価値とは何か。それは誰が決めるのか

本作品において僕が面白いと思ったのは、こっちかもしれません。佃製作所は、上の1で述べたように、独自のノウハウ、加工技術を強みとし、競合と争うことを決めますが、研究者気質の技術者が多いため、製品は凝り性が祟ってコスト、重量が嵩んでしまいます。

 

物語の序盤で、営業担当の唐木田が以下のように話しますが、このセリフが非常に良い。

「意味がないとは言わない。私自身はエンジンは可能な限り高性能であるべきだと思うよ」
「だけど、性能云々をいう前に、我々はそれを実際に使うお客さんに目を向けてきただろうかと、それを言いたいわけ」

技術に長けた者は、技術力で差別化できるが故に、性能が良いものを納めれば取引先に満足してもらえるとも思いがちです。間違ってはいませんが、それが、独りよがりになってはいけないと言う、マーケティングの大原則、「顧客志向」に気づかせてくれる、良いシーンです。

 

これと似た気づきを得られるシーンがまだたくさんありますが、もう一つ抜粋します。トランスミッション関係で佃製作所の卸先となった「ギアゴースト」という会社の技術者で、「天才」と本作で謳われる、島津裕(ちなみに女性)は、佃製作所が納品した製品に対して以下のような評価をしています。

 

細部に亘っての作りがもの凄く行き届いているから。素材も相当厳選してる。重量や燃料への影響、それにコスト。全部計算し尽くした上でウチのトランスミッションとのベストマッチを狙ってきた。これ実は見かけ以上にすごいバルブだよ」
「佃製作所に連絡しといてね。私、こう言うの欲しかったんだよなあ。ありがとう、って」

 

少々専門的な単語を使うと、「価値」に関してはVE(バリューエンジニアリング)という考え方があります。VEにおいて、V(価値)=F(機能)/C(コスト)で示されるのですが、佃製作所で部品の開発に携わった技術者は、V(価値)を最大化するF(機能)とC(コスト)の組み合わせを探し出したのです。

 

VEにおいてミソとなるのが、F(機能)の定義なのですが、このFは、「提供する側」が決めるものではなく、その製品やサービスを「使う側」が決める、ということも気づかせてくれます。ここで、F(機能)を独りよがりで高くしてしまい、それに伴って自分勝手にコストを引き上げて高級志向を拗らせている企業はたくさん見られますが、佃製作所は、しっかりとギアゴーストが求めるV(価値)とそのためのF(機能)、C(コスト)と向き合ったのです。

 

「最高の褒め言葉だ」と心震えると同時に、良い気づきを与えてくれます。僕自身、仕事で営業をしていますが、ふと、自分は勧めたいものを勧めているだけで、お客さんにとってそれは「最適」なのか?と立ち止まることがあります。自分のコンパスとして、胸に刻む大切なエピソードを見ることができたなぁと感じます。

 

今回挙げた他にも、組織の構造と、その構造的欠陥など、分析する見所は満載ですが、特に面白かったこの2点について、今回は述べてみました。冒頭でも述べましたが、この重厚な経営書チックな小説、後編が楽しみで仕方がありません。ヤタガラスで農業か?ヤタガラスを読んだら、また今回のような記事を書いてみたいです。

 

ゴースト、ヤタガラスを読んで、再度、感想をまとめました。お時間ありましたら、こちらもよろしくお願いします

「下町ロケット ゴースト」気になる方はこちら!

シェアする

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

コメントする