全ては現場を従える。現場は全てを覗かせる。 ー下町ロケット ゴースト・ヤタガラスより

組織は戦略に従う ーアルフレッド・D・チャンドラー

戦略は組織に従う ーイゴール・アンゾフ

 

組織論、戦略論には、この二つの説があります。一見、両者は反対の意見を主張しているように見えますが、実際はそうではなく、チャンドラーが言う「組織」は、組織体制を意味しています。組織体制とは、人の配属方法の事です。具体的に言うと「Aさんは営業部、Bさんは製造部、Cさんは経理部にいる。」のような、人を入れる箱(部署)の作りの事です。チャンドラーは、このような会社の配属方法が、その会社の戦略によって決まると主張しています。

 

一方、アンゾフが言う組織は、「組織風土(社風)」を意味しています。具体的に言うと、「A社はアットホームな社風である」「B社は皆ドライな社風である。」のような人々の関係性や場の空気の事です。アンゾフは、その会社の戦略が、この社風によって決まると主張しているのです。

 

今回は、この二つの説を、ドラマ版の「下町ロケット ゴースト・ヤタガラス」を例に取って説明してみようと思います。そして最後に、組織と戦略に関して、個人的に思う事を述べようかと思います。

 

「組織体制は戦略に従う」の例

まず、上段の「組織は戦略に従う」に関してお話しします。これについて、下町ロケットゴースト・ヤタガラスから、佃製作所とギアゴーストの2社を挙げ、比較をします。この二社は年商がほぼ同額なのですが、社員数が全く異なります。佃製作所は200人ほど、ギアゴーストは、30人です。なぜ、こんなにも異なるのでしょうか。理由は、両社の戦略が異なるからです。例を図で説明します。

こちらは、ギアゴーストのビジネスモデルを図で表したものです。図の下には、ギアゴーストの基本戦略を記しました。ギアゴーストは社員30人の会社で、全員が企画・設計に携わっており、営業は兼任で行っているようです。

 

一方、佃製作所に関しても図にすると、

材料調達に関しては省いています

ギアゴーストが「企画・設計」という、実物を必要としない能力を強みにしているのに対し、佃製作所は加工技術や開発力を強みとしているので、その強みを活かすには当然実物である製品が必要ですし、製品が必要ならば、製造部が必要になり、人員が必要になります。

 

このように、どんな強みなのか、そしてそれを生かしどのような戦略で競争するのかが、組織体制に影響を与えるのです。次は、「戦略は組織に従う」に関してです。

 

「戦略は組織風土に従う」の例

次に、「戦略が組織風土に従う」に関して例を挙げてゆきます。

ここでは大きく二つの例を挙げます。一つ目は、知財戦略のやり方について、もう一つは、新規事業のやり方についてです。

まず、一つ目の知財戦略についてです。ここでは2つの例を挙げ、組織風土と戦略に関して当てはめてみます。物語の序盤にて、先に挙げたギアゴーストは危機に直面します。特許侵害をライバル会社のケーマシナリーから申し立てられ、返済不能なライセンス料を賠償するよう求められます。佃製作所は、自社を評価してくれて、新規取引先となってくれるギアゴーストの倒産を阻止したいと考え、顧問弁護士の神谷に相談します。

 

すると神谷は、成功すれば、賠償金を支払わずにギアゴーストを傘下にしてしまう戦略がある、と佃に持ちかけます。それは、以下のような流れの戦略です。ここで出てくるクロスライセンスというのは、「お互いに侵害するより、お互いに特許を使えるようにしましょう」という交換の契約です。

 

旨い話に見える提案ですが、佃製作所はこの戦略を却下します。ギアゴーストに隠れて行う後ろめたさから、「騙すような真似をしてまで、ギアゴーストを手に入れて良いのか?」「ギアゴーストの社長の伊丹や、副社長の島津の夢をこんな形で奪ってしまって良いのか?」と疑問を持ちます。そして、以下のような事を部長達に述べます。

 

「確かにビジネスには戦略が必要だよ。でもこんなやり方、フェアじゃねぇだろ。(中略)会社も人と同じさ。損得以前に、相手のことを思いやる気持ちとか、尊敬の念を持つとか、そういう事が大事なんじゃないのか。人を思いやる気持ちってやつが、俺たちのものづくりに表れてくるんじゃないのか。」

 

ここでいう「人を思いやる気持ちってやつが、俺たちのものづくりに表れてくる」というのは、まさに「戦略(やり方)が組織風土(社風)に従う」を言い換えていると感じます。自分たちの考え方が、物づくりに表れてゆくのだから、フェアでないやり方で成長してゆくと、汚いやり方が自分たちの戦い方になってしまう。だから、このやり方はやめよう、と部長達の説得をしています。この説得は部長達の胸を打ち、佃製作所は、ギアゴーストに協力して、クロスライセンスを狙う方針を固めます。

 

さて、もう一つ知財に関して例を挙げます。もう一つの例はギアゴーストに特許侵害をふっかけたケーマシナリー側の戦略です。ケーマシナリーの顧問弁護士の中川は、自分の契約先のライバルを弱らせる知財戦略が得意な弁護士で、佃製作所の顧問弁護士である神谷とは、まさにヘビとマングースの仲です。その中川が仕掛けた知財戦略は、以下の流れです。

なんと、ギアゴーストには内通者がいたのです。末長は、金を目的にギアゴーストの技術情報を奪い、中川へ漏らします。この時点ですでに違法です笑。ギアゴーストを、自分が顧問を務めるダイダロスの傘下に収めるところまでが中川の戦略です。ダイダロスの社長の重田は、ギアゴーストと、帝国重工へ恨みを持つ社長の伊丹を欲しがっていました。よって、中川は、ケーマシナリーの特許侵害によって弱らせて、ダイダロスに献上しようとしていたのでしょう。

 

違法なやり方で特許侵害を作り出した時点で卑劣ですし、これを実行に移せるのは性根が腐っている中川達だからこその戦略と言えます。上述した通り、佃製作所は絶対にこんなやり方はしません。中川陣営の例と佃製作所を比べると、組織風土が戦略を従えることを、より理解できます。以上、知財戦略に関する例でした。

 

もう一つの例は、帝国重工の新規事業プロジェクトに関してです。帝国重工というのは、ギアゴーストの伊丹と島津の古巣です。伊丹と島津がいた頃から、帝国重工は過去の成功に縛られ、「自分たちは世の中の中心であり、自分たちが開発したものは社会から必ず評価される」という傲慢な態度が部長クラスを中心に蔓延していました。島津はその態度からにじみ出る古い設計思想に異を唱え、左遷させられてしまったのです。

 

その新規事業の見せ場で世間に失敗を晒してしまう事件が起きました。これは帝国重工に非があったのですが、それを認めず人に責任を押し付ける奥沢や的場の態度に、社長の藤間が、一喝します。

「うちの製造部は、プロジェクトから降りろ。自分たちが世の中の中心だと思っている連中に、新規事業ができるはずがない。」

杉良太郎さんが演ずる藤間が魅せる、痺れる一幕でした。これも、帝国重工内の古く固まった思想からは、新しい物が作れない、という事を言っており、斬新な島津を左遷させる事と同様、組織風土が戦略を従える、という例だと感じます。

 

 

現場から、組織風土、戦略、組織体制を覗ける

僕は、会社が作る製品やその設計思想から、会社の内部をイメージするのが好きで、よく予想しています。様々な製品やサービスを見て、競合と比較したりして、その会社がどんな風なのか、予想するのです。会社の性格はチョコレートやアイスクリーム、筆記用具など、身近なものを一つ取ってもわかってくる物です。観察しているうちに「この商品はこの会社らしいな」とも見えてきます。そういう考えを持っていたので、冒頭で述べたチャンドラーとアンゾフの考え方には、自分の経験からしても間違ってはいないと感じますし、今回紹介した下町ロケットの事例も、それを支持していると感じます。

 

今回、この観点で下町ロケットを観ながら気がついた事は、現場(商品・サービス含む)からは商品の開発思想やサービスの提供方法や組織風土が予想でき、組織がどのように運営されているのかが予想でき、戦略をも予想できる、という事です。新設の工場の大きさから、どのようなラインナップが新たに投入されるのかなんとなくわかる。押しつけがましい物を作る会社は、他の会社と顧客を見る際の考え方も異なるだろう、などです。

 

後者に関しては、シャープペンシルのデルガードをマーケティング分析した記事デルガードのマーケティング分析 デルガードは競合商品と比べて優秀な商品となるか? で少し触れていますが、PILOTはZEBRAに比べて国内市場への洞察に欠けます。その理由は、ZEBRAが国内市場を得意とする中、PILOTは東南アジアを主力市場としている事が挙げられます。つまり、国内の市場分析にコストを割く余裕がないため、国内に関しては他社の模倣(今回はZEBRAのデルガードを模倣した)に切り替えたのです。おそらく、今後もPILOTが国内市場に向けて斬新な製品を投入する事は少ないでしょう。・・などです。

 

佃や藤間が言っているように、作る人の考え方って、物づくりに、そして現場に表れるんだな、と再確認しました。僕がこの記事にタイトルをつけるなら、こうです。「全ては現場を従える。現場は全てを覗かせる。」経営の全ての要素によって、現場の形や雰囲気あ作られる。逆に言えば、現場を見れば、その会社の経営に関わる全ての要素を覗く事ができる。

 

そんな事を感じた、下町ロケットの視聴でした。下町ロケット、気になる方がみえたらPrime Videoでご覧いただき、記事の内容を加味して楽しんでいただけたらと思います。

やてん

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