後悔は信念につながる ー下町ロケットゴーストより

(アイキャッチの画像は、下町ロケットの公式Twitterより拝借しています。)

 

下町ロケットのゴースト・ヤタガラスが世に出てから、2年ほど経ったのでしょうか。その頃から、僕はテレビがない生活をしていたので、ドラマ版にしっかり目を通していませんでしたが、最近Amazon primeにドラマが上がっていたので、久しぶりに見てみました。そこで改めて感じたことがいくつかあったので、それについて書いておこうと思います。

 

コンペという信念

下町ロケット ゴーストに出てくる登場人物の一人で、ギアゴーストという会社の社長でもある伊丹 大(いたみ だい)は、第一話でこんな事を話します。

「弊社のコンペは、会社の規模に関わらず、そのときに最善の物を選ぶ。それがギアゴーストのビジネスモデルであり、信念ですから」

コンペ(=競売方式)は、製造業では一般的に採用される調達方式です。複数の取引先で価格を競わせることで、品質と納期を満たした上で、価格を下げさせる方式です。初めてこの文を読んだときは、これを「信念」とまで言い切る事に違和感を感じたのでしたが、今回のドラマ視聴でその背景が見えたので、この言葉の違和感が納得に変わり、余計に心に刺さりました。

 

伊丹はギアゴーストを起業する前、巨大企業である帝国重工で働いていました。その当時、帝国重工は採算が悪化しており、対策として、激しい下請け切りを行いました。伊丹が値下げ要求を呑んでもらえない事を伝えると、当時の部長である的場は、容赦無く、その下請け(重田工業)を切ります。重田工業の社長は、帝国重工の会長と親しい仲にあったため、コストの要求を呑まなくても良いと考えていました。馴れ合いが生じて緊張感が無くなっていたという事です。取引を切られた重田工業はあっという間に倒産、多くの社員が路頭に迷い、首を吊った人までいたとか。

 

これを悼んだ伊丹は、改革案を社内で提案しましたが、社内で強い反発に遭いました。この改革案を上長に話している際の伊丹が、以下のような事を伝えていました。内容は途中で遮られてしまったので、ほんの一部ですが・・。

「そもそも下請け切りをしなければならなくなったのは、大手への過度な依存が原因です。そのため、下請け企業にも競争力をつけさせるために・・・」

おそらく、この際の改革案こそ、後に採用するコンペ方式に近い案だったのでしょう。コンペとなると、それを勝ち取るために下請けも生き残りに必死になります。帝国重工への受注をとり逃さない事もそうですが、それを逃す場合のリスクも考えるようになり、下請け企業は他の取引先や新事業の道を模索するようになるはずです。そうすれば、コストの条件で取引が途絶えても、倒産には追い込まないで済む。伊丹は、おそらくこう考えたのです。

 

ところが、この伊丹の改革案は、帝国重工にとって不都合なものでもあります。下請けの競争力が上がると、最悪の場合、下請けの交渉力が上がり、逆に「これ以上コストを下げない」と強気に出られ、駆け引きが生じる可能性もあるからです。また、関係性が深くない新規の取引先が競売を勝ち取り、数多の取引先が立ち替わるようになると、大手の強みであり常套手段でもある「継続受注の確約による値下げ」の提案も難しくなります。

 

実際に改革案が批判された事には、別の理由がありました。それは、伊丹を下請け切りにおける身代わりにする的場の謀略です。激しい下請け切りが世間の批判に遭った事もあり、伊丹は実際の執行者である的場からその責任を一手に引き受けさせられ、左遷させられてしまいました。上で書いた競争構造に関する問題もあったので、身代わりでなくとも改革案は認可されなかったかもしれませんが、いずれにせよ、そのときの悔いが、ギアゴーストを立ち上げた伊丹に、信念を芽生えさせたのだな、と感じ、そのストーリー性に心震えました。

 

社員は家族という信念

また伊丹は、ギアゴーストが悪徳な特許侵害により倒産の瀬戸際に立たされた際に、従業員の全員雇用を譲らずに、出資者を探していました。本来、会社の存続を考える場合、会社は最悪の手段をとるべきとされます。つまり、解雇です。会社としての機能や権利を残して、最低限にまで人員を減らすことを出資者は条件として出すでしょう。現実でも、日産が倒産しかけた際、カルロス・ゴーン社長は解雇により人員削減を行ないました。ですが、伊丹はそれを受入れません。自分の下請け切りで重田工業の社員とその家族の人生を変えてしまった事を、ずっと後悔していたからでしょう。

 

伊丹が社員を大切にしていることがわかる描写がもう一つあります。自社内部からの開発情報の漏洩が原因で特許侵害に巻き込まれたのではないか、と佃田製作所(物語の主人公である佃田が社長を務める会社)の顧問弁護士である神谷から疑問を呈された際に、伊丹は以下のように答えています。

「いいですか、神谷先生。私は、弊社の中に、開発情報を横流しするような社員がいるとは思えません。弊社はたった社員30人の会社です。皆、会社立ち上げから苦楽を共にしてきたかけがえのない戦友であり、家族です。皆さんは、家族の事を疑えますか?」

 

いかに、伊丹が人を大切にしているかが伺えます。

 

 

後悔は信念につながる

ここまで書いた伊丹の信念の背景は、物語内では語られることのなかった事であり、僕の予想に過ぎません。しかし辻褄も合いますし、作者の池井戸潤さんの想定から大きく外れてはいないと考えます。

 

これを元に僕が思ったのは、「後悔は信念につながる」という事です。自分が忘れられない強烈な後悔の経験は、自分も知らない内に自分の価値観の一部になっているのかもしれない。自分を見直す一つの見方を得られた気がします。また、他の人の価値観の中にも、それと近いものがあるのかもしれないな、と伊丹のストーリーから思いました。

 

書いていてこんなに長くなると思わなかったので、そのほかの気がついたことは、何回かに分けて書いていくとします。次回は、ギアゴーストの副社長、島津についてです。

 

下町ロケット、気になる方がみえたらPrime Videoでご覧いただき、記事の内容を加味して楽しんでいただけたらと思います。

やてん

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